背景と課題
サイロ化されたシステムが
データドリブン経営推進の障壁に
前田道路株式会社 情報システム部長
滝沢 強氏
1930年に設立された前田道路は、2030年に設立100周年を迎える老舗の建設企業だ。道路舗装をはじめとした「工事事業」と、舗装材・材料を販売する「製造販売事業」をビジネスの主軸に据え、全国に道路工事の拠点となる営業所を約100カ所、アスファルト合材の製造・販売を担う合材工場を約100カ所構え、幅広く事業を展開している。
前田道路では、近年、積極的なIT基盤の強化にも努めてきた。ネットワーク環境の再整備や、Amazon Web Services(AWS)を利用した基幹系システムのクラウド化はその一例だ。そうしたIT基盤強化の一環として進められているのが、迅速で正確な経営判断や、事業活動における意思決定を加速させるデータ活用基盤の開発である。これまで同社の基幹システムは大きく工事管理、合材管理、会計の3つがオンプレミス環境で運用されていた。しかし、各システムはサイロ化されており、それぞれに格納されているデータも連携していなかった。そうしたことから、経営状況の迅速な把握や、事業活動の意思決定に役立てるためのデータ分析を行うことが困難だったという。
情報システム部長の滝沢 強氏は「例えば、経営層に対して事業の状況をレポート化して提供する際には、各システムから原価や売上といったデータを個々に抽出し、Excel等を用いて別途、加工・集計する必要がありました。そうした作業には多大な労力と時間がかかっており、経営層へのタイムリーな経営情報の提供の障壁となっていたのです」と説明する。
また、情報システム課 係長の渡辺 隆政氏も「各部門や支店ごとにExcelの帳票を用いて業績予測や顧客管理が行われていましたが、担当者や部署、支店ごとに帳票のレイアウトや入力項目が異なっていたのです。そのため、全社レポートの作成にあたっては、各支店や部門から集められたExcelデータを再度加工、集計し直さなければなりませんでした。そうした作業負荷を削減するため、入力するフォーマットを統一するとともに、各種データを共通基盤となるデータウェアハウス(DWH)上に統合、担当者が必要に応じて抽出できるようにしたいと考えていました」と補足する。
もとより前田道路は工事/合材管理システムのクラウド化を進めていたが、先に述べた課題の解決に向け、クラウドベースのデータ統合/分析基盤の構築にも踏み出す。
前田道路株式会社 情報システム部 情報システム課 係長
渡辺 隆政氏
採用のポイント
臨機応変なサポートとマルチベンダー対応を
評価し伴走パートナーにジールを選択
はじめに前田道路はデータ分析基盤の実現に向けて、BIツールの導入を決定。複数のツールを比較検討する中で最終的に選択されたのが、ウイングアーク1st社の国産BIツール「MotionBoard」だった。MotionBoardを選択した理由について滝沢氏は、「海外製のBIツールも検討したのですが、当社の求める要件にはフィットしない機能が多いと感じました。対して国産のBIツールであるMotionBoardは、ダッシュボード画面の構成をはじめ、当社にとって”痒い所に手が届く”製品であり、今後、前田道路がデータ分析を推進していくにあたって最適な製品と判断、導入を決定しました」と説明する。一方、データ統合基盤についても、複数のクラウドベースのデータウェアハウス(DWH)サービスを詳細に検討した結果、最終的に「Snowflake」を選択する。
プロジェクト推進・技術支援のポイント①
BIに関する豊富な導入実績と知見、柔軟な対応を評価
株式会社ジール データドリブンサービスユニット データドリブンコンサルティング1部 マネージャー
小川 諒祐
MotionBoardを活用したデータ分析基盤の構築を支援するとともに、データ統合基盤となるDWHサービスの選定と提案を行ったのが、ジールだ。MotionBoard をはじめとして、30年以上にわたり様々なBIツールを用いたデータ分析基盤構築の経験と実績を評価したこと、そして、プロジェクトを進めていくにあたっての柔軟な対応が採用のポイントとなった。
滝沢氏は、「データ分析基盤の構築を進めていこうとする中で、前田道路の中で十分に要件が固まっていない部分もありました。対してジールはそうした状況を考慮しつつ、常に最適な選択を行えるように親身になって対応してくれました。ジールであれば、データ分析基盤構築プロジェクトを円滑に進めていけると判断しました」と語る。
ジールの小川 諒祐は、「前田道路様のご要望に可能な限り沿えるよう、はじめに現状をヒアリングし、情報の整理に努めました。その後も、前田道路様から寄せられる追加要件に対しても、臨機応変に対応する一方、スケジュールに遅延が発生しそうな場合には、ジール側から代替案を提案するなど。目指すゴールに着実に辿り着けるような提案を心掛けました」
プロジェクト推進・技術支援のポイント②
複数のDWHサービスから、機能性と運用性を考慮した最適なソリューションを提案
さらにジールの提案のもと、データ統合基盤として今回、新たに採用されたのが、クラウドベースのDWHサービスのSnowflakeである。Snowflakeを提案した理由について、ジールの四釜 浩明は次のように説明する。
「前田道路様からは『将来的に自社内でデータ統合/連携基盤を運用していきたい』という要望が寄せられていました。そこで、今後のデータ活用の進化に寄与する新しい技術を実装しつつも、運用面での負荷を抑制可能なソリューションとして、複数のクラウド型DWHサービスの中からSnowflakeを提案しました。SaaSとして提供されているため基本的な基盤の運用はSnowflake側が担ってくれること、また、データベースの設計面でもIndex等の詳細な設計が不要であることが提案の理由です」(四釜)
こうしたジールに提案について滝沢氏は、「多くのSIerは自社が得意とする製品を提案しがちですが、ジールはマルチベンダーであり、当社の要件を詳しくヒアリングしたうえで機能性や運用性を考慮し、複数のDWHサービスの中からを最適なソリューションを提案してくれました。このことも大きな評価ポイントです」と強調する。
株式会社ジール ビジネスディベロップメント部 上席チーフスペシャリスト
四釜 浩明
導入のプロセス
2024年度の本番運用開始に向け、ジールの支援のもと
データ統合/分析基盤の開発を急ピッチで推進
2022年4月、前田道路によるデータ統合/分析基盤の導入プロジェクトがスタート。ジールの伴走支援のもと、現在、2024年度の本番運用開始に向けて設計、開発が進められている段階だ。MotionBoardを活用したデータ分析基盤の構築では、本番運用開始までのタイトなスケジュールを考慮しながら前田道路の要望に合わせた画面設計・開発に努めている。プロジェクトを進めていく中でも、ジールの柔軟な対応は評価されている。
プロジェクト推進・技術支援のポイント③
積極的なコミュニケーションを通じて、業務理解と認識合わせに努める
限られたスケジュール内でデータ統合/分析基盤の構築が完了できるよう、ジールは支援体制の整備と、円滑なプロジェクト推進にも尽力している。
ジールの山本 晃生は、「2024年度からの本番運用開始に向け、今回のプロジェクトでは多くの設計・開発メンバーをアサインしています。そうした中で、各メンバーが自身の担当業務に注力できるよう、プロジェクト管理に細心の注意を払っています。また、MotionBoardを用いたデータ分析基盤の開発にあたり、前田道路様から寄せられるご要望に対して認識の齟齬が発生しないよう、現場担当者の方々とのミーティングも通じた業務理解にも努めています」と語る。
株式会社ジール データドリブンサービスユニット データドリブンコンサルティング1部 マネージャー
山本 晃生
導入効果と今後の展望
経営レポート作成の負荷軽減に期待
データ活用のさらなる拡大を目指す
先にも述べた通り、現在、2024年度のカットオーバーに向けてデータ統合/分析基盤の設計、開発が進められている。本番運用開始後の期待効果について渡辺氏は、次のように語る。
「1つには、レポート作成における業務効率化が挙げられます。フォーマットの全社統一とSnowflake上でのデータの統合管理、そしてMotionBoardのダッシュボード画面上で集計・加工済みの各種経営情報を表示したり、レポートを生成したりすることが可能になれば、経営レポート作成の時間と作業負荷が大幅に軽減されると期待しています」(渡辺氏)
さらに将来の展望について滝沢氏は、「今回のデータ統合/分析基盤の構築をスタートラインとして、ゆくゆくは経営情報の参照だけでなく、多方面にわたるデータ分析を行い、経営層への情報提供や現場のデータ活用を促進させていきたいと考えています。様々なデータを用いた受注案件の分析や、AIを利用した見積書作成などはその一例です」と語る。
ジールの伴走支援のもと、データ統合/連携基盤の構築を進める前田道路。最後に滝沢氏は、
「データ統合/連携基盤の本番運用開始後、引き続きジールには、当社の業務改善をもたらすようなデータ活用の提案をお願いしたいと考えています」と要望を語った。