「ストーリーの盛り上がりまで数値化できることに驚いた」 ミステリー作家と『メフィスト』編集長のNOVEL AI体験談

株式会社講談社
インタビュー・対談

講談社が運営する、謎を愛する本好きのための会員制読書クラブ「メフィストリーダーズクラブ」(以下、MRC)では、小説などのストーリーをAIによって分析するサービス「NOVEL AI」を会員向けに提供しています。このNOVEL AIは、ジールが開発する「StoryAI」を、MRC向けにリデザインしたものです。

NOVEL AIは、MRCの有料会員(月額550円、年額5500円)になれば、誰でも自由に利用できます。ほかにもMRCでは会員限定小説誌『メフィスト』(年4回発行)の発行をしています。また、MRCを運営する文芸第三出版部では、幅広いエンターテインメント作品の新人賞「メフィスト賞」を主催しています。メフィスト賞は第ゼロ回の京極夏彦さん、第1回の森博嗣さんをはじめ、辻村深月さん、西尾維新さんほか数多くの新しい才能を輩出してきました。現在も新人作家の登竜門として、多くの応募作を集めています。

文芸というジャンルのなかで高い注目を集めるMRCと「メフィスト賞」は、なぜ「ストーリーを分析するAI」のサービスを導入したのか。そして、そのAIは実際の執筆においてどれほど役立っているのか、第63回(2021年)メフィスト賞を受賞した小説家の潮谷験(しおたに・けん)さんと、『メフィスト』編集長の小泉直子さんにお話を伺いました。

対談者プロフィール

【小泉直子さんプロフィール 】
2014年9月 講談社入社。文芸第三出版部配属
会員制読書倶楽部Mephisto Readers Club 発行の小説誌『メフィスト』編集長

【潮谷験(しおたにけん)さんプロフィール】
1978年京都生まれ。
龍谷大学文学部史学科東洋史学専攻卒業。
2020年、『スイッチ』で第63回メフィスト賞を受賞。
2021年、同作品を改稿した『スイッチ悪意の実験』でデビュー。
同年、第二長編『時空犯』がリアルサウンド認定2021年度国内ミステリーベスト10の一位に選出。
変格ミステリ作家クラブ・日本推理作家協会・日本文芸作家協会・本格ミステリ作家クラブ会員。

メフィスト賞を受賞した小説家の潮谷さん

――  これまで多くの小説家を輩出してきたメフィストが、なぜNOVEL AIを導入したのですか。

小泉さん:メフィストは、紙から電子書籍、そして現在はMRCという会員制のコミュニティへと形を変えてきました。そのなかで、メフィスト賞はミステリー小説の新人賞として高い知名度があり、私たち編集者にとっても新しい書き手に目を向けるものとして、大切な仕事として取り組んで来ました。

メフィスト賞は、その選考過程そのものも「メフィスト賞座談会」という形で、メフィスト誌面に掲載してきました。この座談会では、受賞した作品のことはもちろん、惜しくも受賞できなかった作品についても、ここが良かった、あそこをこうしたらいい、といった編集者のコメントがあります。この座談会の記事が、新しい書き手と編集者との大切な接点になっていたんです。

MRCという新しい形になってから、座談会以外にも新たな書き手との接点を作れないか、とずっと考えていました。だから、NOVEL AIの元になったStoryAIを知ったとき、「これだ!」と直観的に思ったんです。

編集部員も同じような感覚を持ってくれましたので、導入することが決まったときは、自然に「探していたものがはまった」という感じでした。「NOVEL AI」が2023年5月にスタートしたばかりなので、実際に書き手の方がどんな風に感じているのか、どのくらいメフィスト賞への投稿の際に使われているのかなどは、これからアンケートを取るなどで調べていきたいですね。

――  潮谷さんは、すでにNOVEL AIを試してみたそうですが、いかがでしたか。

潮谷さん:第一印象は、内容の盛り上がりを感情値という形で可視化してくれて、さらにその起伏による全体のリズムを重視していることに驚きました。実際にNOVEL AIを使うまでは、ストーリーの筋や文章の構造だけを評価すると思っていたので、文字からストーリーを読み取るだけでなく、その盛り上がりまでわかるのかと。

受賞作(赤)と出版作(青)の比較

受賞作の感情グラフ

編集者だと「この辺りはちょっと中だるみするから」「ここでワンクッション置いた方が印象に残る」といったようなアドバイスをしていただくことがありますが、NOVEL AIも同じように全体の流れというか、リズム感を大事にしているように感じました。

今年の9月にMRCのトークライブイベントで、デビュー作の『スイッチ 悪意の実験』で、投稿したバージョンと、その後に編集者のアドバイスを元に書き直して書籍として出版したバージョンを、NOVEL AIで分析して比較してみたのです。そうしたら、やっぱり書き直したバージョンの方が、メリハリがついているという分析になりました。自分が感覚的にやっていたことが可視化できたので、すごく納得感がありましたね。

――  実際に小説の執筆では利用していらっしゃるのですか。

潮谷さん:いま執筆中の長編については、NOVEL AIを知る以前から書き始めたものなので、使っていませんが、最近依頼があった短編やエッセイでは使ってみました。

特にエッセイは、雑誌の1ページに収まる分量なので、リズムを重視するべきだと思っています。短編も10ページくらいのものだと、全体のバランスが取れていないと気持ち悪いので、これまでは何度も読み返して確認していましたが、そうした作業がNOVEL AIによってやりやすくなりますね。

長編については文章を丸ごと分析するよりも、一部分だけを分析してみて重要な場面のリズムを見るような使い方をしてみたいですね。長編なら、ある部分で特徴のない文章がしばらく続いても、全体でメリハリが付いていれば問題ないと思うので。

小泉さん:賞の評価基準に果たしてAIが活用されるときはくるのか……。まだ未知数ですが、もしかしたら近い将来、NOVEL AIが8番目の編集者として(「人間の感覚」の補助として)メフィスト賞選考会に参加する時代が来るかもしれませんね。今はまだ、「人間」の編集者が選考することを、応募される書き手の方も期待していると思うので難しいですけれど。

ただ、私たち編集者は応募作を読んでいても、「才能を見落としているんじゃないか」という恐怖が常にあるんですね。その観点で、AIが助けになってくれることを期待したいですね。

 

――  NOVEL AIをほかの小説家にお薦めできますか。

潮谷さん:ぜひ試してみてほしいと思います。NOVEL AIが、文章を勝手に修正すると勘違いしていて、拒否反応を示している人もいると思うんです。実際は、この文章が間違ってるから直せと指示してくるというより、やんわりと良い方向へのルートを示してくれる感じだなと思いました。文章を直すのはあくまでも人間だということは重要です。

かといってAIは、ワープロソフトのような単なる道具というわけでもないです。そこまでドライな感じではなくて、なんというか執筆中にAIが作家のそばで見てくれている感じですね。

だから、デビューを目指して執筆している人が、自分の文章がおかしいかどうかわからないっていう不安を解消するのに、かなりメリットがあると思います。だからMRCでも、もっと使い方とかをアピールしたら良いんじゃないでしょうか。

小泉さん:NOVEL AIは、編集者にとっても役立つかもしれません。例えば、メフィスト賞の座談会では、受賞に至らなかった作品について何が足りなかったのかを言語化しています。でも、面白いことは言語化しやすいんですが、欠点を言語化するのはすごく難しいんです。NOVEL AIは、その言語化を助けてくれるヒントになるかもしれません。

メフィスト賞座談会はウェブでも公開するので、そこでNOVEL AIを紹介することも検討しています。潮谷さんに出演いただいたトークライブの後は、通常の2倍近いユーザーがNOVEL AIの利用登録をしたので、きちんと紹介すればもっと利用者は増えるはず。

――  NOVEL AIのようなAIの登場は、今後の小説にどんな影響を与えるでしょうか。

潮谷さん:生成AIに対して、作家として脅威を全く感じていないわけではないですが、今のNOVEL AIは小説を執筆する上で補助的な役割を果たせることは間違いありません。だから、NOVEL AIを上手く使って、自分の腕を上げていけるんじゃないかと思います。これからAIが予想もつかないものを作り出すかもしれませんが、そこから刺激を受けて人間はまた新しいものを作り出せるんじゃないでしょうか。

作家としては、SF的な作品も書いているので、まさにAIが発達しているこの時期に、だんだんとAIが人間に近づいていく過程をリアルタイムで見ることができるのは、大きなメリットです。産業革命の頃に、蒸気機関車が登場するのを目の当たりにした作家にしか書けない臨場感があったはずですよね。

小泉さん:原稿をNOVEL AIに読み込ませる部分が少し面倒なので、そこが改善されれば(※)、もっと多くの人が執筆に使ってくれるんじゃないでしょうか。そうすれば、スマートフォンで写真を撮る人が増えたように、IT初心者や小説初心者でも気軽に執筆してみる気になる人が、もっと増えるように思います。

※:原稿をNOVEL AIに読み込ませる際のフォーマット変換機能は今後実装予定です。

2021年秋に発行した第1号と2023年秋の第9号

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株式会社講談社について

Inspire Impossible Storiesを掲げる、さまざまなジャンルの本や雑誌を手掛ける出版社です。性別、国籍、年代の枠を超えて、世界中のすべての人に「物語」を届けます。
社名:株式会社講談社 住所:東京都文京区音羽2-12-21
URL:https://www.kodansha.com/jp/

講談社文芸第三出版部について

Mephisto Readers Clubと「メフィスト賞」を運営する、文芸出版部門です。
URL:https://tree-novel.com/author/mephisto/

製品ソリューション紹介

NOVEL AI

■NOVEL AIについて
「NOVEL AI」は、ジールの「StoryAI」を講談社文芸第三出版部向けにOEMで提供しているサービスで、2023年4月20日の正式リリース後、MRC有料会員向けに提供されています。OEMの元となったStoryAIは2020年8⽉14⽇にリリースされた「Storyを機械学習で感情分析し、改善点を提案する」サービスです。これまで延べ4600万⽂字以上を対象に分析・改善提案を行っており、改善提案によるアップデートは110万⽂字以上におよびます。最近では日本国外からの登録が伸びており、新規サインアップの約75%が国外ユーザーです。利用プランは、コンシューマー向けにFree、Starter、Proを、エンタープライズ向けにBusiness、Enterpriseをご⽤意しています。

NOVEL AIは以下のURLからMRCにアクセスし、「NOVEL AI」をクリックしてください
URL:https://mephisto-readers.com/

StoryAIは以下URLよりアクセスしてください
URL:https://storyai.app

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