公開日:2024年9月5日

更新日:2024年10月9日

現在では、ChatGPTをはじめとする生成AIが社会に浸透しており、それにともない、LLM(大規模言語モデル)の需要が高まっています。

そのような状況で注目されているのが、「RAG(検索拡張生成、取得拡張生成)」と呼ばれる技術です。

RAGは外部データを検索して情報を取得し、LLMによって回答を生成する技術を指し、さまざまなビジネスシーンでの活用が期待されています。

本記事では、RAGの仕組み、活用するメリット、ビジネスにおける活用シーン、RAGを利用する際の注意点について解説します。

RAGとは

RAGとは、信頼性の高い外部情報の検索とLLM(大規模言語モデル)によるテキスト生成を組み合わせて、回答精度を高める自然言語処理(NLP)技術のことです。

RAGは「Retrieval Augmented Generation」を略した言葉で、日本語に訳すと「検索拡張生成」や「取得拡張生成」といいます。

そもそもLLM(Large Language Models)とは、ディープラーニング技術と膨大な量のデータによって構築された言語モデルのことで、高度な言語理解を実現しています。

RAGは、検索機能とLLMをはじめとする生成AIの弱点を補い合う技術として現在注目されています。

RAGが注目される背景

RAGは、LLMが抱える以下の課題を解消できます。

  • 情報が古い

  • クローズドな情報を扱えない

  • ハルシネーションが起きやすい

LLMは、インターネット等で収集した学習済みのデータから回答を生成する技術です。そのため、日々移り変わる最新の情報に対応できないという課題があります。

さらに、情報源がインターネット等の公開情報になっていることから、企業の独自情報のようなクローズドな環境に置かれているものは扱えません。

また、LLMには「ハルシネーション」を引き起こしてしまうリスクがあります。ハルシネーションとは「幻覚」を意味する言葉で、事実と異なる情報をAIが生成してしまうことです。

インターネット上には正しい情報と誤った情報が混在していますが、LLMにはその正誤を判断することができません。

そのため、収集した情報に誤ったものが紛れ込んでいても、あたかも事実であるかのように出力してしまう場合があります。

しかし、RAGは信頼性の高い外部のデータベースの情報を検索して回答を生成する仕組みのため、ハルシネーションが起きる可能性を低減することが可能です。

ファインチューニングとの違い

RAGと同様に、クローズドな情報を扱える手段として挙げられるのがファインチューニングです。

ファインチューニングとは、学習済みのモデルに追加で独自のデータを学習させて、生成AIに新たな情報を扱えるようにする技術を指します。

RAGとファインチューニングには、生成AIに学習させるか否かという点に違いがあります。RAGは生成AIに学習させるのではなく、生成AIが情報を検索できるようにデータベースを用意します。

つまり、ファインチューニングが知識を身につけさせる仕組みであるのに対して、RAGは生成AIがいつでも情報を参照できるように資料を用意しておくような仕組みだといえるでしょう。

プロンプトエンジニアリングとの違い

プロンプトエンジニアリングとは、生成AIが望ましい回答を生成できるように、指示(プロンプト)や質問を設計・開発する技術を指します。

ChatGPTなどの生成AIを利用する際に、必要とするアウトプットを得るためには、プロンプトエンジニアリングが欠かせません。

プロンプトエンジニアリングは、LLMを操作するうえでエンジニアリングのスキルや専門知識を必要としないことも多いため、比較的簡単に実行できます。生成AIに対する入力を変更するだけで実行できるので、RAGに比べて必要な入力データが少なくコストがかからない点もメリットです。

一方で、入力できるデータ量に上限があるため、あまりに多い量のデータはプロンプトに入れられません。それに対してRAGは、膨大な量のデータの利用が可能です。

RAGの仕組み

RAGは「検索」と「生成」という2つのフェーズを経て、回答を生成します。ここでは、チャットAIの利用を例に挙げて、それぞれのプロセスを詳しくみていきましょう。

検索フェーズ

チャットAIを使用した場合の検索フェーズは、以下のような流れで進みます。

  1. チャットAIの入力欄にユーザーが質問を記述
  2. AIが文書やデータベースなどの外部情報の検索を行ない、最適なデータを収集
  3. 検索結果となるデータを取得

このプロセスでは、AIに扱わせたい情報を独自に用意し、検索させることでハルシネーションのリスクを低減できます。このとき、インターネット上の情報だけでなく社内に蓄積されたデータも含めることで、信頼性の高い情報の取得が可能です。

生成フェーズ

生成フェーズは、以下のような流れで行なわれます。

  1. チャットAIがユーザーの質問と検索フェーズで取得したデータをもとに、LLMにプロンプトを入力
  2. 入力されたプロンプトをもとに、LLMがテキストを自然言語処理で生成してチャットAIに返答
  3. LLMから得た回答をチャットAIが出力

AIだけでは、検索フェーズで得たデータを適切な形でユーザーに返すことができません。そのため、AIがLLMに質問して回答を生成してもらい、それを最終的にAIが出力する仕組みになっています。

RAGがもたらす4つのメリット

RAGでは外部情報の検索結果をもとにLLMが回答を生成するため、LLMのみを運用する場合に比べて複数のメリットを得られます。RAGがもたらすメリットは、おもに以下の4つです。

それぞれ詳しく解説します。

外部情報を容易に更新できる

RAGには、外部情報を容易に更新できるメリットがあります。通常、LLMのデータをアップデートするには、最新情報を追加学習させるファインチューニングが必要なため、手間がかかります。

それに対し、RAGはLLMが保有するデータではなく外部情報を検索させるため、ファインチューニングを行なう必要がありません。外部情報のデータを最新化すれば、最新情報をもとにした回答生成が常に行なえます。

生成する回答結果の確実性が高まる

生成AIは、事前に学習したデータをもとに、単語を組み合わせてテキストを生成します。そのため、ハルシネーションを起こしたり古い情報を参照したりするなど、事実とは異なる回答や信頼性の低い回答を生成してしまうケースがあります。

一方、RAGでは信頼性の高い外部情報を検索し生成AIと連携して回答を生成するため、回答精度や回答の信頼性が高まるでしょう。回答の信頼性が疑わしい場合は、参照元の確認をとることもできます。

非公開の情報を扱えるようになる

生成AIは、おもにインターネット上にある既存の情報を根拠に回答するため、非公開の情報に扱うことはできません。

その点、RAGはデータベースに作業マニュアルや顧客情報などの組織特有の情報を登録すれば、その情報に基づいた回答を生成できるようになります。

社内情報をもとに回答を生成する社内用生成AIが実現すれば、ノウハウの蓄積・活用によって業務の効率化につながるでしょう。

費用対効果が高まる

LLMのファインチューニングを行なう場合、データセットの準備やモデルの選定、環境の構築、実装後の評価・精度改善など、コストがかかるのが難点です。

RAGでは、外部情報の検索をLLMの生成過程に追加するだけで済むため追加学習が必要なく、コストを抑えられます。

RAGの活用方法

RAGは、ビジネスシーンにおいてさまざまな活用方法が想定されます。代表的なものは以下のとおりです。

それぞれ解説します。

社内の問い合わせ対応

従来、社内問い合わせに生成AIを利用するにはファインチューニングが必要であり、膨大なデータの準備や専門的な知識、プログラミングスキルが不可欠でした

しかし、RAGでは業務マニュアルや社内規定をデータベースに登録するだけで、専門的な知識やスキルがなくても、独自の社内問い合わせシステムを作成できます。回答の品質を担保するための初期設定や登録する資料の整理は必要ですが、社内の問い合わせ対応をAIで対応できれば、それまで問い合わせ対応を行なっていた従業員は優先度の高いほかの業務に専念できるため、業務効率化・生産性アップにつながるでしょう。

チャットボットによるカスタマーサポート

オペレーションマニュアルや、ホームページなどに掲載しているよくある質問(FAQ)などを外部情報として用意すれば、顧客からの問い合わせに対応するカスタマーサポートとしても活用できます。

通常は、問い合わせを受けてから、オペレーターが社内マニュアルやFAQを手作業で探して対応する必要がありました。RAGとチャットボットを活用すれば、これらの作業の多くを自動化できるようになり、対応コストを削減することが可能です。

電話やメールなどで問い合わせることが少なくなれば、顧客のストレスも減る可能性があります。加えて、対応時間外や土日祝日も関係なく対応できるため、顧客満足度の向上にもつながるでしょう。

コンテンツの作成

営業のプレゼン資料や製品カタログ、ブログ記事などコンテンツの作成にもRAGを活用できます。コンテンツを作成できるツールはほかにもありますが、RAGは自社のフォーマットに沿ったコンテンツを生成できるのがメリットです。

ChatGPTなどと同様に、文章に加えて画像・動画・音声も生成できるため、顧客の関心をひきつけ、エンゲージメントを向上させるコンテンツを作成できるでしょう。

データ分析

市場データやトレンド、消費者のフィードバック、業界レポートなどの外部情報を収集させ、動向を分析させるといった活用方法もあります。例えば、自社で独自に収集した顧客データやアンケート調査結果などをデータベースに登録すれば、それらの情報をもとに市場レポートや競合製品の評価などを出力することが可能です。

ほかのツールでも分析はできますが、RAGでは大量のデータを効率良く分析でき、人では気づきにくい傾向やデータの相関関係を発見できるというメリットがあります。

RAGを導入する際の注意点

LLMを単体で運用する場合と比べてメリットの多いRAGですが、導入時や利用時に注意すべき点もいくつかあります。RAGを導入する際に押さえておきたい注意点と対策を紹介します。

生成結果が外部情報に左右される

解説してきたとおり、RAGは登録している外部情報を検索して回答を生成します。そのため、データベースに間違いがあれば、生成される回答も間違ったものになってしまいます。

外部情報は定期的にファクトチェックやメンテナンスをするなどしてアップデートし、常に正確な回答・出力が得られるようにしておきましょう。

情報漏えいの対策が必須となる

RAGは、検索する外部情報に秘匿性の高い企業情報や機密情報が含まれていても、回答ソースとして使用して問題ないかどうかの判断まではできません。そのため、機密情報が意図せず流出してしまうなど、セキュリティ上の問題が発生するリスクがあります。

アクセス制限をかける、データベースに登録する際には重要な情報を除外するなどの情報漏えい対策を欠かさないようにしましょう。

回答提示に時間がかかる

RAGでは、データベースから情報検索をする分、生成AIを単体で使う場合と比較すると、回答の提示に時間がかかる傾向にあります。データベースのボリュームが大きいほど、検索処理に時間を要してしまうでしょう。

応答時間が長ければ顧客の満足度低下につながるため、顧客の問い合わせ対応にRAGを活用する場合は、見込み顧客の離脱要素になりかねません。この場合は、時間がかかる旨を顧客にあらかじめ明示しておく、データベースに登録する情報の数を少なくするなどの対策を行ないましょう。

RAGには多くのメリットがありますが、活用するノウハウがなければ本来の力を引き出せません。そのため、RAGに任せる範囲と、人が手を加えるべき範囲を区別して運用することが大切です。

社内のリソースが不足している場合は、外部への委託も検討するとよいでしょう。

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まとめ

RAGは、クローズドな情報を扱えることやハルシネーションのリスク低減など、LLMの課題を解決できる技術として、生成AIの分野で注目されています。外部情報を容易に更新できる点や、回答生成の精度を高められる点などメリットが多く、これまで行なわれていたファインチューニングのデメリットをカバーすることも可能です。

実際に、RAGは社内FAQやカスタマーサポート、コンテンツ作成、データ分析などさまざまなビジネスシーンで活用されており、今後も多くの導入が見込まれるでしょう。

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