背景と課題
営業DXの実現を目指し新営業支援システムの構築に踏み出す
静岡県静岡市に本店を置く静岡銀行は、しずおかフィナンシャルグループの中核を担う地方銀行である。同行は2023年4月、しずおかフィナンシャルグループ各社とともに、2023年度から2027年度までの5年間を対象期間とする第1次中期経営計画「Xover~新時代を拓く」を策定。2030年に目指す姿として「すべてのステークホルダーがサステナブルかつ幸福度が高まっている状態」と定め、地域や顧客の課題解決を通じた新たな社会価値創造と企業価値向上の両立に取り組んでいる。
「自社の企業価値向上や利益だけを追求するのではなく、人口減少・少子高齢化、経済の活性化、環境問題など、地域やお客様の課題を解決し、新たな社会価値を創造することで、地域と当グループ双方の持続的な成長を目指しています」と、営業戦略部支店サポートグループグループ長 前島 将宏氏は、第1次中期経営計画の意義を強調する。
そうした社会価値の創造においては、地域のデジタルトランスフォーメーション(DX)化推進による課題解決が不可欠となる。そのためにも同行は自らがDXに積極的に取り組んできた。
株式会社静岡銀行 営業戦略部 支店サポートグループ グループ長
前島 将宏氏
その具体例が、第1次中期経営計画の基本戦略にも掲げられている「トランスフォーメーション戦略」である。これは、デジタル技術やデータの利活用を通じて、グループ一体での高付加価値営業の実践、経営・営業管理の高度化、迅速化に取り組んでいくもの。顧客との接点を改革する「タッチポイントX」をはじめ、営業時間の捻出・データ活用などによる営業の質・量の向上によりトップラインを拡大する「営業X」、業務のデジタル化・育成により重点分野に人財を再配置し、各基本戦略の推進を加速させる「人財X」、経費構造を転換しながら「攻めの投資」を積極化する「経費X」の4領域を対象としたDXを推進している。
中でも営業Xの主軸として実施されてきたのが、データ活用基盤の構築だ。2022年にしずおかフィナンシャルグループが収集・蓄積する様々なデータを共有し活用するためのプラットフォーム「S-hare(エスハレ)」を構築。併せて、営業Xの取り組みを加速させるための基盤となる新営業支援システム「S-CRM(スクラム)」を開発し、2023年1月から本番運用を開始した。
S-CRM構築の目的には、これまで同行が抱えていた様々な営業活動に関する課題の解決があった。1つは、従来の営業支援システムは、法人取引先、個人取引先で使用するシステムが異なっており、顧客情報や営業活動情報の共有、連携が困難だったこと。前島氏は、「加えて、顧客情報のやり取りは主に紙が用いられており、多大な業務負荷と時間のロスが発生していました」と振り返る。同様に、グループ企業間での情報共有や連携強化の観点からも、システム統合による業務の効率化・高度化は急務だったという。
課題解決に向け、同行では業務の抜本的な見直しに着手。そのうえで定められたシステム要件に基づきS-CRMを構築して、営業支援システムを統合。行内だけでなく、グループ各社での活用も可能とすることで、営業拠点、本部、グループ間でのシームレスな情報共有を図るとともに、ペーパレス化などの業務効率化も達成した。
採用のポイント
ジールの伴走支援のもとMotionBoardの導入と追加機能開発を推進
S-CRMはSalesforce Financial Services Cloudをプラットフォームとして構築されているが、銀行の業務において不可欠となる計数情報の可視化と管理業務効率化のために併せて導入されたのが、ウイングアーク1st社のBIツール「MotionBoard」だ。
前島氏は、「銀行の営業業務には案件などの進捗管理だけでなく、貸出金の実行、返済、回収の管理から、残高の推移、目標に対する実績、および過去との実績比較などを行う計数管理があります。この計数管理業務の効率化・高度化に向けて業務要件をとりまとめたところ、Salesforce Financial Services Cloudの機能だけでは、当行のニーズを満たすのは難しいことが分かりました」と説明する。
そうしたことから静岡銀行では計数管理業務に関して別途、ツールの導入を決定。複数のソリューションを比較検討した結果、最終的に選ばれたのがMotionBoardだった。
前島氏は採用の理由について「計数管理を高度化するためのシミュレーション機能を備えていたこと、また、集計・分析だけでなく、データベースやファイルにデータ入力が可能であるため、ユーザー自らがデータソースを更新、活用できる柔軟性、そして、使い慣れたExcelのような操作の容易性が導入の決め手となりました」と説明する。
そして、MotionBoardを活用した計数管理システムの構築から、現在もなお進められている追加機能の開発を伴走支援しているのが、ウイングアーク1st製品を用いたシステム構築で数多くの実績とノウハウを持つジールである。
「ジールにはS-hare、S-CRMの構築時から、MotionBoardと各システムとのデータ連携の仕組みや、行員が利用する計数管理機能のダッシュボード画面の開発をサポートしてもらっていました。本番運用開始後の追加開発案件でもジールをパートナーに選んだ理由は、ウイングアーク1st製品に関する知識と実績をはじめ、これまでのプロジェクトを通じて当行の業務に関するノウハウを蓄積してきたこと、また、ともにプロジェクトを進める中で培われた信頼関係を評価したことが挙げられます」(前島氏)
導入のプロセス
計数管理業務の高度化・効率化に向けMotionBoardの追加開発を支援
現在、MotionBoardを利用した、計数管理システムをより使いやすく、かつ、より高度化するための様々な追加機能の開発がジールのサポートのもと、実施されている。
プロジェクト推進・技術支援のポイント①
求められた要望に基づき、シミュレーション機能を強化
株式会社ジール 大阪支社 大阪DXコンサルティング部 シニアマネージャー
小谷 太一
今回、MotionBoardによる計数管理システムに追加開発された機能の1つが、シミュレーション機能である。MotionBoardの追加開発を担当したジールの小谷 太一は、「計数管理の高度化の一環として、貸出実績の推移や目標に対する実績の予測などを行うシミュレーション機能の実装が静岡銀行様から求められていました。そこで、今回、静岡銀行様が求めるニーズを満たせるよう、MotionBoardのシミュレーション機能に追加開発を行いました。その過程ではシミュレーションを行うために必要となる、様々なシステムから生成・収集されるデータをデータウェアハウス上で結合・集計する仕組みの構築も実施したほか、MotionBoardの特長である入力機能を最大限生かすために、現場の行員の方が日頃どのような入力を行い、どのような係数を管理しているのかを理解し、ダッシュボード画面の構築にも取り組みました」と説明する。
プロジェクト推進・技術支援のポイント②
初期段階で実画面を作成、齟齬のない迅速な機能開発に尽力
また、小谷は、プロジェクトが円滑に進行するよう、静岡銀行との密なコミュニケーションを取りながらアジャイル開発のアプローチで臨んだ。「例えば、ダッシュボード画面の開発にあたって、事前に静岡銀行様からExcelで作成されたイメージを基に、実現したい機能や画面構成などを提供していただきました。しかし、ドキュメントベースでのやり取りだけで進めてしまった場合、お互いの認識に齟齬が生じ、機能や操作面でギャップが出てしまう恐れがあります。そこで、求められる機能や画面構成に齟齬が発生しないよう、まずはMotionBoardで実装した場合の機能・画面イメージを初期段階で開発し、静岡銀行様に見て、触れて、確認してもらい、さらにご要望に応じて改修を施しながら完成させる、という手順をくり返しながらプロジェクトを進めました」(小谷)
このようなジールの支援に対して、営業戦略部 支店サポートグループ 課長の佐野 伸伍氏は、「システム開発の現場では、ユーザー受け入れテストの際に、現場の業務担当者から『想像していたものと機能や操作性が違う』といった声が寄せられることが少なくありません。それに対して、ジールは実物を見せながら、ユーザーの声を都度、反映してシステムをブラッシュアップしていくやり方を採用し、それにより大きな認識の祖語を生じさせることなく円滑にプロジェクトを進められました」と評価する。
株式会社静岡銀行 営業戦略部 支店サポートグループ 課長
佐野 伸伍氏
導入効果と今後の展望
計数管理にまつわる作業負荷を削減
いち早い営業判断も可能に
ジールの支援によるMotionBoardの追加機能の開発、および活用により、静岡銀行の営業DXはさらに加速度を増している。前島氏はMotionBoardの活用状況について、「現在、貸出金の月次推移など、各支店の支店長や役席といったマネジメント層の行員は日々、MotionBoardを通じて計数情報の確認を行っています。ほかにも、ローンセンターの所長がローンの振り込みが期日内に行われているかを参照、確認するなど、MotionBoardは多方面での活用が進んでいます」と説明する。
このようなMotionBoardの活用によって創出された効果の1つが、適格な計数管理の実現により、いち早い現状把握と意思決定が可能となったことだ。「これまでは各支店から各エリアの母店、さらには各ブロックの母店、そしてカンパニー・本部へと、多段階にわたる報告プロセスを辿っていたほか、各プロセスにおいて、報告された数字が正しいものか、確認する作業が行われていました。これにより、カンパニー・本部に報告されるまでに多くの時間や作業の負荷が発生していたのです」と前島氏は振り返る。
「現在では、そのような段階を踏んだ報告プロセスがなくなり、MotionBoardのダッシュボード画面を参照すれば、関係者はすぐに計数などの状況を把握できるようになりました。その結果、日々の営業活動に、現在、どのようなボトルネックが生じているのか、各プロセスで発生した課題に対して具体的な対処策をすぐに講じられるようになったことは、大きな効果です」(前島氏)
加えて、業務の効率化にもMotionBoardは貢献している。「これまでExcelを用いて作成、管理されていた報告作業が大幅に削減されたことで、行員が営業活動に充てる時間を増やすことができました。すなわち、中期経営計画において掲げられている“地域社会の価値創造”という私たちにとっての最重要ミッションに取り組むための時間をさらに捻出できています」と前島氏は評価する。
現在、静岡銀行では、他の地方銀行など、地域の金融機関に対してS-CRMを中心とした営業効率化の事例を紹介し仲間づくりに取り組んでいる。「すでに20行以上の地方銀行様からも好反応を頂いています。そうした中で、私たちが重きを置いているのは、 “データを活用する仲間づくり”です」と前島氏は強調する。
「地域金融機関どうしがS-CRMを通じてデータ活用に取り組み、そこで新たな活用法を見つけ出したのなら横展開するなど、お互いに補完しあえるような状況を作りだしていくことが最大の目的です。S-CRMは銀行における営業業務の実地に即した多彩な機能を有している点が強みです。そして、ジールにはMotionBoardの導入支援など、S-CRMを外部に展開していくにあたってのサポートもお願いしたいと考えています」(前島氏)