背景と課題
オンプレミスのデータ分析基盤で性能や拡張性に限界が迫る
洗剤・トイレタリー、化粧品などの分野で国内トップクラスのシェアを誇る花王グループ。企業理念である「花王ウェイ」の中で掲げるビジョン「消費者・顧客を最もよく知る企業に」の実践がグループの原動力だ。消費者の志向がモノからコト(体験)へと変化していく中、小売業の現場で商品と消費者をつなぐKCMKの果たす役割は大きい。
「KCMKにとって商品の販売がゴールではありません。当社が目指しているのは、消費者に商品を使って満足していただくことです。そのためには売場で商品の価値を正しく伝えることが重要になります」と流通開発部門 KCT推進部 部長 斎藤 伸也氏は話す。
また、コト消費時代には従来と異なる売場づくりが求められると、流通開発部門 KCT推進部 マネジャー 澁谷 拓氏は指摘する。
流通開発部門 KCT推進部 部長
斎藤 伸也氏
流通開発部門 KCT推進部 マネジャー
澁谷 拓氏
「KCMKは、これまでチェーンストア様との取り組みの中で、販売実績となるPOSデータや、顧客の属性を加えたID-POSデータを分析し売場づくりに活用してきました。これからはSNSをはじめ、生活者の行動データなどを収集・分析し、お客様の傾向を一定規模のセグメントに分類する『スモールマス』に適したプロモーションが必要です」(澁谷氏)
KCMKは、オンプレミスでKCT(Kao Collaboration Tools)と呼ばれるシステムをフルスクラッチで構築し、データ分析基盤として運用してきた。その規模は大きくなり、今後POSデータ以上の規模を持つSNSデータなどを扱うことを考えると、オンプレミスでは性能や拡張性の面で限界があった。
採用のポイント
クラウドを活用したスケーラブルな分析基盤を重視
花王グループは、コスト削減や運用負荷の軽減を目的にクラウドへの移行を積極的に進めている。次期KCTもクラウドを活用したスケーラブルな基盤で、データウェアハウスとBIツールをベースとすることがテーマとなった。
「膨大なデータを取り扱うためのスケーラビリティに加え、メンテナンスなど運用・保守業務の負荷軽減、ユーザからのリクエストに対する迅速な対応など、既存のKCTで浮き彫りとなった課題の解決も盛り込まれました。また従来はレポートを出力する場合、その都度データ計算のジョブが走り、時間がかかっていました。さらに帳票の出力には、小売業様に対してわかりやすいレポートにするために手間を加える必要がありました。データ活用の効率性と有効性を向上するべく、BIツールの採用も重視しました」(澁谷氏)
KCMKはさまざまな観点で複数のクラウドサービスを検討した結果、Microsoft Azureを選択。その理由について「これまでExcelやSQL Serverなどマイクロソフト製品を使っており、ユーザの使い勝手の良さ、移行のしやすさなどを総合的に判断しました」と斎藤氏は話す。またBIツールはAzure SQL Data Warehouseとのシームレスな連携が可能なことからPower BIが選択された。
ジールが採用された最大のポイントはデータウェアハウスとPower BIの豊富な知見と高い技術力
KCMKは、次期KCTの構築パートナーに関して日本マイクロソフトに相談したという。「マイクロソフト社様のGold Partnerであることはもとより、データウェアハウスとPower BIの両方で有する豊富な実績と知見、優れた技術力を高く評価し、構築パートナーにジール様を採用しました」と斎藤氏は話す。さらに、データウェアハウスの設計におけるフォローや提案力への高い評価も、ジールを採用する際のポイントとなったという。
次期KCTは、KCMKにとってこれまで培ってきた技術やノウハウの活用の仕方とは異なる新たなチャレンジとなる。「従来のKCTは仕様をしっかりと固め、それに基づいて開発するウォーターフォール型の構築方法で行っていました。今回は不確定要素が多かったため、従来型の手法では困難でした。ジール様は当社の立場に立ち、変化に柔軟に応える開発スタイルを提案してくれました」と澁谷氏は話す。
ジール SIサービス第三本部 ビジネスアナリティクスプラットフォーム事業部 川名 秀之は当時をこう振り返る。「最初に要件を固めてしまうのではなく、KCMK様の話を伺いながら、まず現状の運用に近いイメージのレポートを作って見ていただき、フィードバックを受けて改善し完成度を高めていくという、アジャイル開発をご提案しました。これにより、変化にも柔軟に応えるシステムを構築できます」とジール 川名は説明する。
株式会社ジール SIサービス第三本部 ビジネスアナリティクスプラットフォーム事業部 マネージャー
川名 秀之
導入のプロセス
ジールの提案と技術力でセキュリティの課題も解決 構築における3つのポイントもクリア
2018年2月、KCT構築プロジェクトは、Azure SQL Data WarehouseとPower BIを利用した実証(PoC)を実施した。Power BIで既存のKCTと同じ帳票が出せるのか、またAzure SQL Data Warehouseと組み合わせて、KCMKが求めるデータの見える化を実現できるのかが焦点となった。
しかし、PoCの段階で次期KCTの実現に関わる問題が浮上したという。「各小売業様からお預かりしているデータは、その小売業様の当社担当者しか見ることができないようにする必要があります。Azure SQL Data WarehouseとPower BIの機能による対応では、データにアクセスする権限の実装が難しいことがわかりました。しかしジール様の提案により、データべース側で制御を行うなど運用上の工夫をすることで、難題を切り抜けることができました」と斎藤氏は語る。
ジールによるこの提案は、データベース側に各小売店様とKCMKの担当者を個別に紐づける仕組みを構築し、レポートを参照する際はその担当者のみ閲覧できるようにするものだ。こうした閲覧権限の付与に関する仕組みは、KCMKにとってセキュリティの確保するための重要なポイントであり、こうした課題にもジールの支援により解決することができた。
そして2018年4月、KCMKはPoCによる検証結果を踏まえて次期KCTの構築を開始。構築する過程において、ジールはKCMKと一体となってプロジェクトを進行していった。その取り組みはKCMKからも大きく評価されている。
プロジェクト推進・技術支援のポイント①
ジール同席のもと、ダッシュボードに関するユーザとの検討会の開催
「ジール様同席のもと、KCT推進部で提示したひな型をたたき台にしてユーザと意見交換を行いました。アジャイル開発により評価と改善を繰り返すことでユーザ満足度の高いダッシュボードを実現できました」(澁谷氏)
プロジェクト推進・技術支援のポイント②
Azure SQL Data Warehouseへのデータ移行で、ジールの提言によって時間短縮を実現
斎藤氏は、「大量データの移行に関してジール様から、並列処理により時間短縮を図ることができるというアドバイスがありました。また、小売業様から当社に対するPOSデータを提供いただくタイミングが各社で異なることから、当社のPOSデータ運用チームと連携し、データの送り方も考慮に入れた上で、各小売業様に対し緻密なスケジュールを立てて切り替えを行いました」と話す。
プロジェクト推進・技術支援のポイント③
パフォーマンスの向上にも、ジールの技術的なサポートによってユーザ満足度を向上
「当初、処理スピードの面でなかなか性能を出すことができませんでした。その後、ジール様に相談しながら試行錯誤を繰り返し、本稼働に漕ぎ着けることができました」と斎藤氏は話す。ジールの川名も「膨大なデータの中で、いかに性能を低下させることなく、レポート要件を実現していくかを常に考え、データモデルの見直しやデータマートの作成など、アジャイル的に改善、検証、計測というサイクルをまわすことで、求められている性能を実現できました」と話す。
導入効果
新しい分析軸も素早く実装 ジールの技術力やサポート力を高く評価
2019年11月から次期KCTは本格的にサービスを開始。Power BIは小売業への提案を行う約2000人の営業担当者が利用している。「既存のKCTは、条件を入れて検索し帳票を出力してExcelで加工していました。新しいKCTは、大きな括りからドリルダウンしていくことで課題を見つけ、そこに対してどう提案していくかを見い出していきます。これまでとは異なる分析の考え方について、啓蒙活動も今後の重要なテーマです」(澁谷氏)
オンプレミスで構築した場合と比較して、次期KCTはコストが約半分に
花王グループ全体でクラウドへの移行を推し進めてきた中で、次期KCTもクラウドの特長を活かしたスケーラブルな基盤を構築することができた。この基盤となるAzure SQL Data Warehouseは、クラウド上でリソースの最適化を図りやすく、自社でシステムをスクラッチで開発するオンプレミスと比べて、開発コストや運用管理コストも軽減できる。今回クラウドで構築された次期KCTは、オンプレミスで構築した場合と比較し、導入・運用コストを約半分に削減できたという。
Power BIにより新たな分析軸に迅速に対応 コト消費に対応したプロモーションをさらに強化
経営面では、Power BIで利用できる分析軸が重要なポイントになる。次期KCTによる分析基盤を活用することで、コト消費に対応したプロモーションをさらに強化できる。澁谷氏は、「こういう分析軸がほしいという要望に対し、迅速に対応することが可能になりました。またPower BIによるデータの可視化で、営業担当者に対して視覚的なレポートを作成する環境が提供できました」と述べる。サービス開始に至るまで、ジールの高い理解度とサポートもあり、KCMKはジールと一体感をもってこうした効果を発揮することができた。
PowerBIを使用した、KCTのダッシュボード
ユーザーは左画面にあるように直感的にクリックしてドリルダウンするだけで必要な情報にアクセスすることが可能(右)
今後の展望
今後もジールの活用提案に期待、データに基づく次期KCTの役割と可能性は大きい
今後の展望について斎藤氏は次のように話す。「ECサイトやネット通販の普及により、実店舗のあり方が問われています。『スモールマス』に対して、最適な提案をどのようにして小売業様の売場で行っていくか。これからはますますデータに基づく店舗づくりが重要になってきています。ECサイトと実店舗における消費者の購買行動の違いを含め、新しいKCTの果たすべき役割と可能性は非常に大きなものがあります」
花王グループが小売業とともに持続的に成長していくために、新しいKCTがさらに真価を発揮するのはこれからだ。「当社の要望に対してジール様は、『無理です』とは言わず、必ず代替案を提示いただけるので、とてもありがたいです。今後は、BIツールの新しい使い方や、Microsoft Azureの先進機能を活かした提案なども大いに期待しています」と斎藤氏はジールへの信頼と期待を語った。