背景と課題
保有在庫の適正化が課題にデータを活用した管理の徹底化へ
郷商事は、建設・農業機械メーカーや家電メーカーが製造する機器の部品を販売し、商事・貿易部門と生産管理部門を併せ持ったメーカー機能商社として事業を展開している。事業を推進する中で、郷商事で課題として浮上していたのが建設や産業、農業機械の部品として使用される油圧ホースといった材料の在庫適正化だった。
郷商事のプロジェクト担当者は、「顧客から指定された納期は、必ず守らなければなりません。したがって、急な発注にも対応できるよう、材料の在庫を確保しておく必要がありました。しかし、時には社内で抱える在庫が増加してしまうこともあり、在庫の適正化とその維持が課題となっていたのです」と説明する。
また、郷商事の建設機械部門が取り扱う油圧ホースは、ロール束で仕入れられ、同社のグループ企業の工場で指定される長さに切断したり、金具を装着して加工したりするなど、さまざまな工程を経て製品として顧客に納品される。その過程では、どうしても材料ロスが発生してしまうが、目標として設定していた数値よりも実際のロスが上回ることがあった。
これまでの在庫管理では、毎日30分から1時間ほどの時間をかけて、担当者が基幹システムからCSV形式でデータを抽出し、最新の在庫状況とその後の推移をまとめた資料を作成していたが、担当者は在庫管理だけでなく、工場への部品出庫や仕入れ先への発注など、他にさまざまな業務を抱えており、登録漏れや各工程でのチェック漏れが生じることもあった。そうなると、理論在庫と実在庫に差異が発生し、材料の棚卸し時に誤差が出てしまう。
採用のポイント
ジールとウイングアーク1st社が協同開発した在庫管理テンプレートを評価し「MotionBoard」と「Dr.Sum」を採用
「これらの課題を解決するためにも、データを活用した在庫管理の徹底をはじめ、在庫の適正化と持続的運用が可能な仕組みの実現が急務となっていました」と担当者は語る。
そうした課題の解決に向けて郷商事が選択したのは、ウイングアーク1st社の国産BIツール「MotionBoard」と「Dr.Sum」を組み合わせた在庫管理ソリューションである。
そして、その導入と構築を支援するパートナーを担ったのがジールだった。MotionBoardを選択した理由の1つが、ジールとウイングアーク1st社の協同開発による「在庫管理テンプレート」が用意されていたことである。
担当者は、「在庫管理やその適正化のためのノウハウを凝縮したテンプレートを用いることで、短期間でのシステム構築が可能になると期待しました」と説明する。
「また、当社の情報システム部はリソースに十分な余裕があるわけでなく、導入や構築に際して、国内ベンダーのほうが手厚いサポートを期待できると考えたこともMotionBoardとDr.Sumを選択した理由でした」
さらに同社は、MotionBoardによる生産進捗見える化など、グループ企業の工場内の活用の幅を拡げられることも期待した。
導入のプロセス
ジールの導入・構築支援により、在庫テンプレートを有効活用するためのカスタマイズを実施
ジールの支援のもと、2019年6月に在庫管理の適正化に向けたプロジェクトがスタート。
要件確認と設計や構築、テストを経て、同年8月末から運用が開始されたが、途中でシステムの見直しを図ることとなり、ジールのサポートとともにシステム再構築に着手。2020年6月からMotionBoardとDr.Sumを活用した在庫管理システムの本番稼働に漕ぎつけることができた。担当者は、ジールの支援についてこう評価する。
「当初こそ、初めてプロジェクトを共にするジールに対してこちらの望むサポートをしてくれるのか不安に思っていましたが、ジールはプロジェクトを成功に導くため、ひとつ1つ必要な支援を、都度、きめ細かく提供してくれました。こうしたジールの手厚いサポートにはとても感謝しています」
プロジェクト推進・技術支援のポイント①
基幹システム上のデータを在庫管理テンプレートに投入するための仕組みを構築
株式会社ジール データドリブンサービスユニット マネージャー
藤田 拓也
基幹システムから抽出されるデータを在庫管理テンプレートで利用するために、ジールによってDr.Sumに落とし込み、MotionBoard上で画面上に表示させるためのデータ加工の仕組みが実装された。
今回のプロジェクトを担当したジールの藤田 拓也は、「プロジェクト開始当初から、基幹システム上にあるデータが在庫管理テンプレートで利用できるのかが懸念されていました。そこで郷商事様のご協力をいただきながら、基幹システム上に登録されたデータをチェックし、現況を把握していきました。その後、何度か試行錯誤を重ね、在庫管理テンプレートに合わせてデータを加工する仕組みを施しました」と説明する。
プロジェクト推進・技術支援のポイント②
在庫状況をほぼリアルタイムで確認できる画面をカスタマイズで実装
今回、MotionBoardのダッシュボード画面上に、在庫の状況を表示させるための画面がカスタマイズで実装された。ジールの長谷川 和真は、「基幹システムに登録された顧客からの確定・内示情報のデータを取り込むことで、いつ、どの製品が、どのくらい出庫されるのか、残材の在庫の状況と今後の推移が一目で分かるような画面をカスタマイズで作成しました」と説明する。
株式会社ジール データドリブンサービスユニット シニアアソシエイト
長谷川 和真
プロジェクト推進・技術支援のポイント③
ジールの支援のもと、システムの見直しと再構築を実施
当初は顧客からの発注状況に基づき、在庫として抱える材料にランク付けなどを行うなど、材料の管理項目の粒度を細かくすることで在庫の適正化を図ろうとしたが、手作業による事前のデータ加工が思いのほか煩雑化してしまった。そこで、入庫から加工、出庫までのステータスをタイムリーに把握できるよう、見直しを図ることになった。藤田は、「郷商事様からのご要望に応えるためカスタマイズに着手しましたが、できるだけ工数を抑えるためにも、できる限り既存システムで使える部分を残しながら、カスタマイズする部分も現状のシステムに合わせるように努めました。その結果、要件確定から設計、構築、検証まで1カ月程度でシステムの再構築を終えることができました」と説明する。
導入効果と今後の展望
在庫の適正化と、需要予測に基づく仕入れ計画策定に向け大きく前進
基幹システムからのデータ取り込みがすべて自動化されたことで、担当者が手を煩わせることなく、最新の在庫状況が参照できるようになった。ステータスごとの材料のデータ取り込みの自動化、そして在庫状況の正確な把握が可能になったことで、入力漏れを原因とする理論在庫と実在庫の差異や、棚卸時の誤差の発生が改善されていった。
「また、棚卸差異の発生理由が容易に突き止められるようになったほか、材料ロスの原因究明、改善検討のためのベースができました。こうした取り組みを積み重ねていくことで、より正確な在庫の推移を把握できるようになると期待しています。それを第一歩として今後は在庫の適正化や材料ロスの削減、そして需要予測に基づく仕入れ計画の策定などにつなげていきたいと考えています」(郷商事 担当者)
MotionBoardとDr.Sumは、グループ企業内にも活用を拡大させつつあり、現在ジールの協力のもと、工場内の製造工程の可視化も進められている。
「一方で、顧客からも郷商事の保有する製品在庫を把握して自社の製造・販売計画に活用したいというご要望を頂いています。この要件に対してもMotionBoardとDr.Sumが活用できるのではと考えており、今後もジールには引き続き手厚いサポートを期待しています」