背景と課題
応対品質の向上に向けたVOCのデータ活用で「肯定的」「否定的」などの感情分析が必要に
オンラインショッピングのニーズが高まる中、宅配は暮らしに欠かせないインフラといえる。新型コロナウイルス感染拡大の影響でその重要性はますます高まっている。
「宅急便」で知られるヤマト運輸を中核とするヤマトグループにおいて、お客様満足度を支えるコンタクトセンターを担っているのが、ヤマトコンタクトサービスだ。
コンタクトセンターの役割として、お客様の応対とお客様の声を示すVOC(Voice of Customer)活動は重要な柱となる。
同社は、お客様一人ひとりに寄り沿う応対品質の向上を図るために、社内体制の整備に力を注いでいる。
また、データ活用の観点から、これまで電話やメール、FAQ、チャットボットなど、非対面接客によるVOCの収集・分析に早くから取り組んできているのも大きな特徴である。
お客様のダイレクトな意見が詰まっているVOCは、企業にとって宝の山だ。
しかし、膨大なテキストデータの中から「宝」を見つけ出すのは容易ではない。
同社におけるVOC分析の課題について、ヤマトコンタクトサービス ICT戦略部の担当者は次のように話す。
「これまではメールによるお問い合わせのテキストデータを、キーワードなどを抽出するテキストマイニングツールに取り込み、集計・分析した結果を使ってExcelでレポートを作成していました。しかしExcelによるレポートは、視覚的・直感的に判断することが難しいため、データ活用がしにくくなっていました」
採用のポイント
Text Analyticsの感情分析に手応え
イメージ通りのBI画面にジールの技術力を評価
ヤマトコンタクトサービス株式会社 ICT戦略部 係長
鈴木 俊輔氏
今回、同社が目指したのは、VOCをカスタマージャーニーにマッピングし、感情分析により顧客体験を可視化することだ。
マッピングすることでリーズンやシーンごとに何が起きているか、ペインがどこにあるか、ビジュアル的、直感的に確認することが可能となる。
また、ドリルダウンすることで、詳細内容も閲覧でき、掘り下げて確認する。
感情分析によりVOC活用のスピードと質が大幅に向上させることができる。
2019年、同社は感情分析の導入検討に入った。しかし、求めていたツールはなかなか見つからなかったとヤマトコンタクトサービス ICT戦略部 係長 鈴木 俊輔氏は振り返る。
「情報収集を含めると10社以上を検討しました。テスト用のデータやキーワードなどを提供し、感情分析を行ってもらいましたが、いずれも合格レベルには達しませんでした。半ば諦めかけていたところ、Azure Cognitive ServicesのText Analyticsを試してみると、『いけるのではないか』と思いました」
機械学習・AI関連のサービス群であるAzure Cognitive Servicesにおいて、Text Analyticsは、テキストマイニングにより抽出した感情の手がかりをもとに感情分析を行う。すでに学習済みのモデルが用意されており、機械学習の専門知識は不要だ。「Text Analyticsは感情を分析する軸もネガティブ、ポジティブ、ニュートラルの3軸に集約され、洗練されていました。他社の場合は、怒りや悲しみなど極端なカテゴリの数は多かったのですが、その精度は高いものではありませんでした」(鈴木氏)
「Text Analyticsの利用について、マイクロソフトに相談しました。そして開発ベンダーとして紹介されたのが、AI 、BI、DWH、Microsoft Azureなどデータ活用に豊富な実績と知見を有するジールでした。2020年7月に当社から要件をジールに伝え、9月末からプロジェクトを開始しました。ジールが作成したモックアップとしてのBI画面を見た瞬間に、探し求めていたものが見つかったと思いました」と鈴木氏は続ける。
導入のプロセス
アジャイル型のプロジェクトにすることで
短期間で効率的な進行と、徹底的な品質追求
ヤマトコンタクトサービスにおける感情分析を活用したVOC分析システムは、既存ツールによるテキストマイニング済みのデータを使ってText Analyticsで感情分析を行い、データ統合サービスAzure Data FactoryでETL(抽出・変換・格納)を実現、クラウドデータベースのAzure SQL Databaseに格納し、Power BIで可視化する。
この一連の仕組みは、ヤマトコンタクトサービスにおける「Best」と、システムとしての「Best」を汲み取り、いきなりゴールに向かうのではなく、小さな成功体験をコツコツと積み上げていくことで、徹底的な品質の追求を目指すものだ。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、ジールとのやりとりの多くはWeb会議で行われたが、非常にスムーズに進んだプロジェクトだったと担当者はジールの対応力や技術力を高く評価する。
プロジェクト推進・技術支援のポイント①
高い理解力でお客様の立場に立って提案やアドバイスを実施
「ジールは当社の説明や要望に対する理解力が高く、開発寄りの目線になるベンダーが多い中で、利用者である当社の立場に立って提案やアドバイスをしてくれました」(担当者)
ジールの板倉 有梨惠は、「先進的にVOCに取り組んできたヤマトコンタクトサービス様がこのプロジェクトで目指すべきことは明確化されていました。当社の提案やアウトプットがお客様との間でギャップが生まれないように考慮しながら進めました」と話す。
株式会社ジール ビジネスアナリティクスプラットフォームユニット コンサルタント
板倉 有梨惠
プロジェクト推進・技術支援のポイント②
アジャイル型のアプローチで完成度を追求
「ジールが作成したBI画面に関して要望を出すと、スピード感をもって改善案が提出されたため、方向性が固まるのが早かったですね」(担当者)
「利用者目線を大切にしながら、アジャイル型でプロジェクトを進めました。『提案、確認、改善』のサイクルをうまく回すことができたのは、お客様のご協力があったからです」と板倉は加える。
プロジェクト推進・技術支援のポイント③
Web会議で一緒に手を動かしながら基本操作を丁寧に説明
「感情分析とBIの組み合わせは、今後さまざまなシーンで利用に期待が集まるため、内製化が不可欠でした。Azure Data FactoryもPower BIは触れた経験がなかったのですが、ジールにスキルトランスファーの場を設けてもらい、Web会議で一緒に手を動かしながら、ジールに基本的な操作方法や使い方を丁寧に教えてもらえました」(担当者)
導入効果と今後の展望
Excelによるレポートから脱却しBI活用の普及へ
感情分析の活用拡大に向けてジールがサポート
ヤマトコンタクトサービスは、2020年9月に実施したモックアップで作成した画面を、レポートを利用する関係部署に展開。
感情分析とBIの組み合わせによって、データ活用の可視化を推し進めることができた。
そして同社は、レポートなどのBI化やツール化をさらに加速させていくという。
「感情分析とBIでVOCの数値化・可視化をさらに進めていくことも重要なテーマです。現在、ジールのサポートのもと、アンケートの分析に感情分析とBIの活用を進めています」(鈴木氏)
今後の展望について、こう話す。
「Azure上でテキストマイニングから感情分析、BIまで一連の流れを実現すべく検討を進めています。データを活用していくうえで、感情分析とBIの組み合わせに関して高い有効性を確認できたことから、業務改善やサービス品質の向上に向けて貢献できるシーンを広げていきたいと考えています。ジールには技術支援やサポートに加えて、当社の目線に立った先進的な提案を期待しています」
「想いをつなぐコミュニケーション・パートナー」を目指すヤマトコンタクトサービス。ジールは、データ活用に関するさまざまな技術支援を通じて同社の期待に応えていく。