背景と課題
部門間の閉じたデータを公式のルールで流通させ、
意思決定を迅速化するためのデータドリブン経営が急務
株式会社大林組 デジタル推進室 デジタル推進第一部長
安井 勝俊氏
大林組が1911年に受注し、その後1914年竣工した鉄道院東京中央停車場(現、東京駅)。同社は、日本の発展とともに六本木ヒルズ、東京湾アクアライン、東京スカイツリー®など、時代を象徴する建物を数多く手がけ、社会インフラ整備に貢献してきた。「持続可能な社会の実現」を企業理念に、創業150周年の節目にあたる2042年に「目指す将来像」として掲げているのが、「最高水準の技術力と生産性を備えたリーディングカンパニー+多様な収益源を創りながら進化する企業グループ」である。
同社は「目指す将来像」に向けて、建築や土木、開発、再生可能エネルギー事業などの新領域の4つの事業を強化し、事業領域の深化・拡大、グローバル化を加速させている。ロードマップにおける最初のステップで重要なテーマがデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の推進だ。「当社では、IoTやAIなどデジタル技術を活用した次世代情報システムの開発・構築を進めるとともに、部門間の閉じたデータを公式のルールで流通させ、データに基づき意思決定を行うデータドリブン経営の実現に取り組んでいます」と、デジタル推進室 デジタル推進第一部長 安井 勝俊氏は話す。
データドリブン経営の根幹はデータ活用にある。従来、同社では総務・営業・設計・工事など、部門最適でシステムを構築し、データ活用も部門内で中心に行っていた。部門外でデータを活用する場合には、担当者が社内システムや社外の情報を手元に集め、Excelでまとめ、レポートを作成していたという。
「手作業による集計業務では、隔週や月次のタイミングで経営指標などのデータを可視化するのは困難であり、ミスを招く恐れもあります。また、各部門で同じようなデータを作成するといった非効率な面も課題になっていました。DXにより社会や産業の構造が変化する中、意思決定の迅速化を図るために、社内のデータを統合し活用する基盤の構築が必要でした。経営陣からは『失敗することを恐れず、スピード感を持って取り組む』ことを求められていました」(安井氏)
2019年1月、同社はデータドリブン経営の実現を目指し、全ユーザが利用するデータプラットフォーム構築プロジェクトをスタートさせた。
採用のポイント
データプラットフォームの構築で重視した4つのポイント
部門に分散しているデータをいかに統合し、全ユーザを対象とするデータ活用を実現するか。データプラットフォーム構築プロジェクトでは、大きく4つのポイントを重視したと、デジタル推進室 デジタル推進第一部 副部長 望月 政宏氏は、次のように説明する。
1.データ取得の窓口一本化
データプラットフォームにアクセスすることで、ユーザの誰もが必要な時に必要なデータの活用を可能にする。
2.データ活用における情報システム部門の負荷軽減
これまでは業務部門のデータ活用におけるニーズに対して、情報システム部門が内容を理解したうえで、データを収集・加工して提供していた。データ取得の窓口一本化と自動化、業務部門のセルフサービス化を促進することにより、情報システム部門の負荷を減らすことで、情報システム部門は、情報戦略など重点テーマに集中する時間を創出する。
3.疑いようのない正しいデータであること
データの品質は、分析結果の信頼性に直結する。また、上司から「このデータは正しいのか? 」と疑問を挟まれるケースもあったという。社内の誰もが同一のデータを利用し、かつ正しいデータであることを説明できるようにするためには、データを複製するのではなく実際に動いているシステムのデータを読み込む点を重視した。
4.セキュリティの確保
これまで部門ごとでアクセス権限を行ってきたデータ活用を、部門を横断しユーザの誰もが利用できる環境に変えることにより、利便性とセキュリティの両立が重要な課題となった。
株式会社大林組 デジタル推進室 デジタル推進第一部
副部長 望月 政宏氏
「Denodo」は唯一無二の製品、構築パートナーのジールも唯一の選択肢
株式会社大林組 グローバル経営戦略室 経営基盤イノベーション推進部
主任 廣瀬 雅之氏
グローバル経営戦略室 経営基盤イノベーション推進部 主任 廣瀬 雅之氏は、4つのポイントを満たす製品を調査・検討する中で、2019年9月、ジール主催のセミナーで衝撃的な出会いをしたという。一緒にセミナーを受講した安井氏は、廣瀬氏から「これですよ! 」と力強い一言があったと明かす。廣瀬氏がそのセミナーで一目惚れした製品が、データ仮想化ソリューション「Denodo」だ。
「データを仮想化して管理するという技術をソリューションとして提供する製品のうち、積極的な展開を推し進めている製品は私の知る限りDenodoだけです。DWHなどの従来型のデータ活用では、物理的に複数のデータソースからデータを複製・統合するため運用負荷への懸念がありました。運用負荷の増加を最小限にしつつ『疑いようのない正しいデータ』を求める当社の要望に対し、唯一応えることができたのがDenodoでした。データを複製することなく論理的なデータウェアハウス環境の提供により、ユーザは1つの大きな論理データウェアハウスへリアルタイムでアクセスし、意識することなく常に最新のデータを利用できます。これはまさに、当社が求めていた製品でした」(廣瀬氏)
Denodoが唯一無二の製品であるように、構築パートナーとしてのジールも唯一の選択肢だったと廣瀬氏は強調する。
「ジールは、Denodoの代理店としてデータ仮想化の旗振り役を担っています。Denodoとジールを分けて考えることはできないというのが率直な感想です。またDenodoによるデータプラットフォームのアウトプットとなるBIの分野においても、ジールが豊富な実績と高い技術力を有している点も重要なポイントとなりました」(廣瀬氏)
導入のプロセス
ジールの支援のもとPoCを実施、Denodoのパフォーマンスを実感
2019年11月から3カ月間、同社はジールの支援のもとビジネスユースケースとテクニカルテストケースの観点から、Denodoが同社の求める要件にどこまで対応できるのかを検証するためPoCを実施した。ビジネスユースケースのPoCにおけるポイントについて廣瀬氏はこう話す。「Denodoで論理データウェアハウスを構築し、セキュアな環境で権限のあるユーザに公開する『データのオープン化』をどう実現できるかを重視しPoCで検証しました」
そしてビジネスユースケースの評価基準として、論理データウェアハウスの実用性や、データソースへの影響(負荷)の有無、権限を有するユーザ・組織への情報提供ができるかなどを含めたユーザ管理の実用性、さらにデータカタログの実用性の大きく4点を設定した。
論理データウェアハウスの実用性に関する検証について、廣瀬氏はこう説明する。「まず、既存システム用のデータベースであるOracle Databaseやその他データベース製品に接続するためのJDBCやODBCのサポートをはじめ、XML、JSON、Excelといった各種ファイルに加えて、Webサービスなどさまざまなデータソースにつながることを確認しました。これまでXMLファイルを読み込める状態にするまでに苦労していたのですが、Denodoは特に設定することなくXMLファイルがうまく開けた時にはとても驚きました。またパフォーマンス面も考慮されており、ユーザがストレスなく利用できることもわかりました」
また、データソースへの負荷について、「Denodoによるデータ仮想化では、業務システムの稼働中にデータを読み込むため、既存システムの性能面への影響も確認しましたが、問題ないことがわかりました。またデータ仮想化により、既存システムの改修が必要なく、短期間の導入が可能であることを確認できました。さらに、コマンドではなくGUIによる操作が多いため、運用も楽に行えます」と望月氏は話す。
そして、ユーザ管理の実用性では、セキュリティを確保しながら全ユーザによるデータ活用を実現するために、アクセス権限が重要なポイントとなる。望月氏はDenodoのアクセス権限設定の機能を高く評価する。
「Denodoではデータべースレベル、フォルダ/ビューレベルに加え、行・列レベルでアクセス権限を設定できます。『これは凄い! 』と思いました。例えば、ある顧客番号の住所勤務先は参照不可(マスキング)など細かく設定できるため、管理職や部門、グループ、個人などそれぞれの立場や業務に合わせたデータ活用を実現することが可能です」
さらにデータカタログの実用性では、大林組が求める「正しいデータであること」を担保できるかが評価ポイントとなった。
「ビューおよびデータソースの構成や依存関係などをトレースするデータリネージ(系統)など、メタデータに関する情報の一元管理を実現するデータカタログ機能により、メタデータの検索が容易に行え、どこにどのような情報があるのかをユーザが把握できます。また、ユーザは専門知識がなくてもWebブラウザを使ってキーワード検索が行えることに加え、『Denodoから取得したデータである』ことから、利用データに関する説明責任を果たすことも可能です」(廣瀬氏)
テクニカルテストケースでは、データカタログのインプット情報の収集、Active Directoryとの連携、非構造化ファイルの取り込みなどの評価基準を検証した。PoCの総合評価について安井氏はこう話す。
「機能面、投資額、ジールの技術力と相性などを総合的に判断して、Denodoの導入を決めました。国内での実績がほぼ皆無である点は、これまでであれば大きなマイナス要素です。しかし、『だから他社との差別化ができる』とプラスの思考をしました。今後ユーザ企業のICT部門に求められるのは、目利き力と主体性であると考えています。今回のDenodo導入は、その第一弾です」
構築プロセス
手戻りのない構築作業で約3カ月間の短期間構築を実現
2020年2月、同社はPoCの評価をもとに、ジールを構築パートナーとするDenodoの採用を決定し、2020年4月から6月までのわずか3カ月間で環境構築を行った。「データプラットフォームに対する経営企画部門の期待は高く、私たちにも強いプレッシャーがありました。当社のニーズに応える仕組みを、PoCも含めて期間内でやり遂げることができたのは、ジールの支援があったからです」と安井氏は話す。実際にジールと一緒に構築していく中で、ジールを評価するポイントについて3点挙げた。
プロジェクト推進・技術支援のポイント①
手戻りがない作業で短期間構築に貢献
「構築作業で手戻りがなく、やり直すといった無駄な時間が一切ありませんでした。途中からプロジェクトに参加した当社のメンバーが、ジールの作業内容を記載したエビデンスを見ながら検証環境を構築できたという事実からも、ジールにおける構築作業の質の高さがうかがえます」(望月氏)
新型コロナウイルスの影響のもとで、短期間かつ質の高いシステム構築を行うために、自社環境で事前に課題を洗い出して解消したうえで、大林組への構築に臨んだと話すのは、ジール デジタルイノベーションサービスユニット シニアコンサルタント 山口 亜矢子だ。「例えば、冗長化構成のパラメータ1つひとつに対し、Denodo社の技術者と直接やりとりをしながら検証した後、本番構築を行いました。またコロナ禍に伴う外出自粛要請の中、リモートで本番環境を構築するため、トリプルチェックで確認するなど細心の注意を払いました」
株式会社ジール デジタルイノベーションサービスユニット シニアコンサルタント
山口 亜矢子
プロジェクト推進・技術支援のポイント②
運用を踏まえた質問への回答
株式会社ジール デジタルイノベーションサービスユニット シニアアソシエイト
佐藤 葵
「当社の質問に対し、ジールは運用する私たちの視点に立ち、内容を噛み砕いて分かりやすく説明してくれました。また運用の継続性を図るために、ジールに作成いただいたドキュメントによって、引き継ぎも確実でスムーズに行えます」(廣瀬氏)
Denodoのマニュアルはすべて英語のため、和訳した際に英語の意味合いと異なるケースも出てくるとジール デジタルイノベーションサービスユニット シニアアソシエイト 佐藤 葵は話す。「Denodo社からの情報をそのままご提供するのではなく、Denodo社の技術者に深掘りして聞くことで自分なりに理解し、大林組様にわかりやすい言葉で伝えることができるように工夫しました」
プロジェクト推進・技術支援のポイント③
「親切・丁寧・誠実」で信頼関係を構築
「Denodoの導入は、私たちだけではできなかったと強く思っています。ICTプロジェクトも人と人の信頼関係のもとで進められるため、ジールの仕事に向き合う誠実な姿勢は、プロジェクトをやり遂げるうえで重要な要素となりました」(廣瀬氏)
今回、プロジェクトにおいて大林組の高いICTリテラシーが刺激になったとジール ビジネスディベロップメント部 上席チーフスペシャリスト 石家 丈朗は振り返る。「大林組様のDenodoに対する技術的関心の高さや理解度の深さから、質問に答えていく中で当社のノウハウにも磨きがかかりました」
株式会社ジール ビジネスディベロップメント部 上席チーフスペシャリスト
石家 丈朗
導入効果と今後の展望
ユーザの誰もがデータカタログにアクセスしBIツールでデータを可視化
2020年7月、Denodoをベースとする大林組のデータプラットフォームはサービスを開始した。「ユーザがデータカタログにアクセスし、使いたいBIツールをDenodoにつないで、見たい角度でデータを分析してもらいたい。当初は社内の基幹システムを中心とする構造化データを対象としますが、将来的には業務で利用している社外の統計データやIoTのセンサーデータといった半/非構造化データも含む、さまざまなデータをDenodo経由で提供し、多様な分析を可能にしていきます。さらに高度なBIツールの利用に関してはジールの支援も期待しています」(廣瀬氏)
データに基づくワークスタイルの実現を目指す
今後の展望について大林組は、Excelを離れて、その先にあるデータに基づくワークスタイルの実現を目指していくつもりだ。「これまでと仕事のやり方が大きく変わります。情報システム部門に依頼することなく、ユーザの誰もが必要なデータをタイムリーに活用することで競争力や生産性の向上が図れます。また、経営や上司に対しダッシュボードを使って、疑問が提示されたらその場でドリルダウンし、動的に説明することも可能です」(安井氏)
同社においてデータドリブン経営の真価が問われるのはこれからだ。データ活用エバンジェリストの設置など、啓蒙活動も重要なテーマになると安井氏は話す。「ジールにはこれからもDenodoによるデータプラットフォームの安定運用はもとより、データ活用の支援をお願いしたいと思います。また、データ活用の文化の定着に向け、ジールがデータマネジメント分野を牽引するデータ総研との戦略的パートナーを結んだことも大いに期待しています」と付け加えた。