近年、IT技術の発展と共に業務効率の改善や働き方の多様化などを求める社会的な変革が起き、ビジネスにおいてもクラウドを介したサービスを利用することが主流になっています。
最近では、より効果的なクラウド利用を実現する手段として「マルチクラウド」という概念が出てきました。
本記事ではこのマルチクラウドについて詳しく解説します。

マルチクラウドとは


マルチクラウドとは、複数のパブリッククラウドを「併用して」利用する運用形態のことです。
一つのクラウドサービスですべてを完結するシングルクラウドに比べ、複数の異なるクラウドそれぞれの特徴を活かすことで、企業全体の業務効率を向上できます。
例えばコストが安いデータ保管用クラウドや、近年流行のAIを得意とするクラウドなど、現場のニーズに合わせて複数のクラウドを組み合わせることで最適な運用を目指します。

マルチクラウドが注目される背景

マルチクラウドは、比較的、最近使われるようになった言葉です。 その背景には近年の日本やビジネスを取り巻く環境の変化が影響しています。 「マルチクラウド」が注目されるようになった背景を2つの観点で見ていきましょう。

クラウドの普及

日本では2000年代半ばからクラウドサービスが普及し始め、その後インターネットの急速な利用拡大やアプリの増大を背景に、その導入は加速してきました。 その後もクラウドの発展は止まらず、2021年には政府がデジタル庁を新たに設立。
政府共通で利用可能なクラウドサービスを作成して「ガバメントクラウド」と名付け、社会の変化に応じて迅速かつ柔軟にITインフラを構築できる環境を整えました。 このように民間企業から政府までクラウドサービスの利活用は急速に進んでいます。

テレワークの加速

現在、ビジネスにおいてファイルの共有やビデオ会議などのアプリやクラウドサービスを使わない日はありません。 さらに新型コロナの影響でテレワーク導入の必要性が高まった結果、多くの企業がネットワーク環境をクラウド整備することになりました。
急速に浸透したクラウドは今やビジネスに必要不可欠な存在となり、より最適な利用環境を求めてサービスが多様化した結果、登場したのが「マルチクラウド」という新たな運用形態です。

ハイブリッドマルチクラウドとマルチクラウドとの違いは?

複数のクラウドを利用して最適な環境を作るという点ではハイブリッドクラウドもマルチクラウドと同じです。
両者の違いはデータの管理方法にあります。

マルチクラウドは、複数のクラウドベンダーが供給するサービスをそれぞれ管理・運用します。
例えば部門ごとに業務内容に適した別々のクラウドサービスを利用することも可能です。

一方のハイブリッドクラウドは、外部のクラウドサービスと自社サーバー(オンプレミス)を統合して管理します。
厳重なセキュリティ確保が要求されるデータは自社サーバーを、その他はクラウドサービスを使うといった利用方法もあります。

マルチクラウドのメリット

複数のクラウドを利用し、全体の業務効率を向上させることが期待できるマルチクラウド。ここでは、そのメリットを3つのポイントで解説します。

  • カスタマイズしやすく、柔軟な対応ができる

  • ベンダーロック回避で、自由度が高い

  • リスクの分散・軽減ができる

カスタマイズしやすく、柔軟な対応ができる

シングルクラウドでは細かな要求にすべて応えることができないケースもあります。 例えば、経理部門と製造部門では要求する要件や機能、そもそものプラットフォームが異なるなど、一つのクラウドサービスでは両者を満足させることが難しい場合があります。 そこでそれぞれの要求に適合するクラウドサービスを複数選ぶことで、柔軟なクラウドの利用を可能にします。

ベンダーロック回避で、自由度が高い

シングルクラウドでは一つのベンダーにすべてを依存することになるため、いざ他のクラウドサービスを使いたいと思ったときに移行できないというベンダーロックが発生します。 また、利用料金が安いほかの同一サービスに移ることが難しく、市場価格よりも高い料金で利用し続けなければならないといったケースも考えられます。 マルチクラウドであれば、あらかじめ複数のベンダーを利用できるので、ベンダーロックを防ぐことができ、自由度の高い運用ができるでしょう。

リスクの分散・軽減ができる

クラウドを利用する際に恐れるべき事態は、クラウドに障害が起きて事業が止まってしまうことです。 企業によっては数分のダウンでも大きな影響を受けることもあります。そこで障害発生時のリカバリを迅速に行えるよう、マルチクラウドでバックアップ体制を構築しておくことで、 事業停止へのリスクを分散したり、軽減できるでしょう。

マルチクラウドのデメリット

マルチクラウドには多くのメリットがある一方で注意すべきデメリットもあります。特に注意すべき2つのデメリットを見ておきましょう。

  • コストが増加する場合がある

  • 管理やセキュリティ維持が複雑になる

コストが増加する場合がある

多くのクラウドサービスは月額で利用料を支払います。 従量課金制の場合には常時稼働させていると高額になるため、必要なときだけ立ち上げて利用するなどの注意が必要です。 また一般的にシングルクラウドの場合に比べて複数のクラウドを利用する方がコストは増えるため、十分な費用対効果があるかを事前に確認することが大切です。

管理やセキュリティ維持が複雑になる

利用するクラウドが多くなるほどそれらの運用や構成管理は複雑になります。 クラウドごとに料金やサービス内容、運用方法は異なるため、誰がベンダーとの折衝やメンテナンスをするのかなど、個別のクラウドサービスに応じた管理体制が必要です。 また機密データを扱う企業にとってセキュリティの管理は最重要課題といえます。 しかしクラウドベンダーのセキュリティポリシーが自社と一致しておらず、強度が足りない可能性もあるため、それぞれのベンダーごとに厳重なセキュリティ管理が求められるでしょう。

マルチクラウド導入のポイント

最後にマルチクラウド導入に向けた3つの重要なポイントを解説します。導入に失敗しないためにぜひ最後までご確認ください。

  • クラウドを利用する目的を明確にする

  • 最適なクラウドを選ぶ

  • マルチクラウドに対応した環境を整える

クラウドを利用する目的を明確にする

マルチクラウドを利用する際には最初に目的を明確にするところから始めましょう。 クラウドを用いて実現したいことを決め、クラウドサービスに求める要求事項も整理しておくことが大切です。 目的や要求が曖昧なままクラウド選定を進めてしまうと、コストが不必要に増大し、使い勝手も悪く全体的に非効率なシステムになりかねません。

最適なクラウドを選ぶ

数あるクラウドサービスの中から自社に最適なものを選ぶのは容易ではありません。 誤った選択を避けるためには、要求事項を満たすサービスをコストや機能の観点から慎重に見極めることが大切です。 その際、導入後の管理や運用の手間を考慮し、自社事業のどの部門・プロセスにクラウドを導入すべきかも十分に検討します。 検討する候補は一社ではなく、複数のベンダーを比較すると安心です。

マルチクラウドに対応した環境を整える

マルチクラウド導入前後のコスト比較は非常に重要です。 利用するクラウドサービスが増えるほど一般的に利用料も高額になりますが、うまく利用できれば導入によってその料金に見合う効果があるはずです。 導入前後の効果を正しく評価できるように具体的な計画を作成しましょう。 例えばクラウド導入によってどの程度業務改善やコスト削減につながるかなどを見る必要があります。 同時に、IT部門や関連部門の運営体制を計画しておきましょう。 予想以上に現場の工数がかかり、期待通りに運用できないという事態を避けられます。

マルチクラウド導入の流れとは?

では、前項で解説したマルチクラウド導入のポイントを踏まえて、実際のマルチクラウド導入の流れを見ていきましょう。

  1. 現状の課題とマルチクラウドの導入目的を明確にする
  2. 適切なクラウドの選択
  3. 移行計画の検討
  4. マルチクラウドの運用体制を整える

1. 現状の課題とマルチクラウドの導入目的を明確にする

マルチクラウドを導入するにあたって、まずは現状の課題を整理し、導入目的を明確にしておきましょう。 マルチクラウドは複数のクラウドを併用する関係上、シングルクラウドやプライベートクラウドよりも構成や運用が複雑になることが一般的です。 そのため、「競合他社が導入しているから」といった曖昧な理由で導入を検討するのではなく、「マルチクラウドの導入が最適なソリューションになり得るのか」という部分から検討する必要があります。

2. 適切なクラウドの選択

現状の課題とマルチクラウドの導入目的を明確にしたら、次はそれらを基に適切なクラウドを選択します。 前述の通り、数あるクラウドサービスの中から自社に最適なものを選ぶのは容易ではありません。 クラウドサービスの選択を誤らないためには、コストや機能の観点だけでなく、サポート体制やセキュリティ面にも着目し、複数のベンダーを総合的に比較・検討する必要があるでしょう。

3. 移行計画の検討

導入するクラウドが確定したら、続いて移行計画を検討します。 事前に移行計画をしっかりと立てておけば、実際の移行がスムーズになるだけでなく、IT部門や関連部門の負担軽減にも繋がります。 特に現行のシステムを運用しつつ、段階的にマルチクラウドへ移行する場合は、担当者の負担が大きくなりやすいため、状況に応じて外部パートナーへの依頼も検討する必要があるでしょう。

4. マルチクラウドの運用体制を整える

移行計画に合わせて、運用体制の整備も必要です。 マルチクラウドに限らず、システムの導入後に期待通りの運用ができなければ、宝の持ち腐れといえます。 マルチクラウドを効果的に運用するためには、一元管理できる管理システムやセキュリティ対策ツールを別途導入するなど、監視するための仕組みを構築することが重要です。 万が一トラブルが発生した際に全社的な業務の停止に繋がらないよう、プラットフォームの形成も含めて、運用体制はしっかりと整えておきましょう。

ジールには大手クラウドサービスの構築・運用の知見があります

これまでお伝えしてきたことからもわかる通り、クラウドを利用したプラットフォームの構築では、導入前のコンサルティングから運用開始後の保守サポート、 スキルトランスファーまで、クラウドインフラの構築のみならずデータ活用のライフサイクル全体にわたってフォローができるパートナーを選ぶ必要があります。

ジールは、これまで培ってきたデータ活用基盤構築の実績とノウハウによりサービスの選定からコンサルティング、インフラを含めた設計や構築、そして運用保守サポートまで お客様にとって最適なクラウドデータプラットフォームの実現を支援します。 更に、ジールはMicrosoft Azure やAWS(Amazon Web Services)、Google Cloud、 Oracle Cloud Infrastructure(OCI)など、多彩なクラウドプラットフォーム構築・運用の知見を有しています。

そのため、複数のクラウドサービスを組み合わせるマルチクラウド環境においても、ベンダーロックインを回避し、お客様のご要望に応じた最適なクラウドプラットフォームの構築・運用への対応が可能です。

大手クラウドサービスの導入・活用事例

ここではジールがこれまで大手クラウドサービスを導入・構築した事例をご紹介いたします。 企業のご担当者様は、是非ご参考にしていただけたらと思います。

【Azure導入事例①】小田急電鉄株式会社様への導入事例

ジールの提案型・アジャイル型アプローチによってデータ分析基盤を構築し、事業部門の自律的なデータ活用を支援

     

  • 同社のデータ分析基盤は、 Microsoft Azureを利用し、乗降データ、外部イベントデータ、CO-ODEをAzure SQL Databaseで一元管理し、分析サービスAzure Analysis Servicesを使ってPower BIでのデータ活用を実現している。

  • テナント誘致や交通広告の検討で活用していた列車の乗降データの取り扱いについて、事業部門自らがデータを活用できる基盤を構築したい

→事業部門の意見を反映したプロトタイプを作成して改善していくジールの「提案型」「アジャイル的」アプローチにより、PoCで実践的な要件を固めることができた

→事業部門の自律的なデータ分析基盤の構築により、データを活用した業務変革の推進に大きく貢献できた

【Azure導入事例②】旭化成株式会社様への導入事例

データマネジメント基盤の導入により、旭化成の“データファブリック”を実現1カ月でプロトタイプを構築し、柔軟なプロジェクト推進にジールが大きく貢献

  • 「ジールの提案は、クラウドサービスMicrosoft Azureをベースとする内容でした。SaaSのメリットを活かし、迅速かつスモールスタートで、柔軟に拡張していく。 そのアプローチは、初期投資を抑え、スピード感をもって基盤を構築したいという当社の思いと合致していました。 また、データ連携に関してもアジャイル型開発で進めていく点も評価しました。 さらに、ジールに対しては、提案内容の説明や質疑のやりとりがしっかりしており、構築から運用、スキルトランスファーまで一貫した支援が受けられる点や、マイクロソフト社と一体となったサポートを心強く感じました」(山崎氏)

  • 旭化成グループ内外で発生するデータを、高品質に、セキュアに、誰もが素早く活用できるデータマネジメント基盤を構築することで、データ分析を通じた新たなビジネスチャンス創出・社会課題解決に貢献したい

→「Azure」「データカタログ」「ETL」への知見をはじめ、旭化成が目指す「データファブリック」への豊富なノウハウと技術力があることに加えて、マイクロソフト社と一体となったサポートによる着実なプロジェクトの推進力を評価​​​​​​ →実運用に応えるプロトタイプ環境が構築できたことに加えて、プロジェクトの変更にも柔軟に対応し、手戻りも少ない、スケジュール通り本稼働にこぎつけることができた。

【AWS導入事例①】株式会社BANDAI SPIRITS様への導入事例

AWSによるデータ活用基盤でDXを加速 日々のデータ活用から教育サービスまで ジールの伴走支援によって「データの民主化」を促進

    • AWSを利用したデータ活用基盤の処理性能を改善し、大容量データにも対応可能な分析環境を構築したい

​​​​​​→AWSを使ったデータ活用に際して、パフォーマンスの最適化に向けた課題の発見と、解決に向けた技術力を評価 ​​​​​​→AWSを利用したデータ活用基盤の整備から、業務に直結した改善提案、教育セミナーの開催まで、データ分析を中心とした総合的なサポートを評価 ​​​​​→大規模データを用いた際のETL処理の異常終了に関する問題を解決。過去数年に遡ってデータの抽出・集計・加工・分析が可能となった

  • 「こうした当社の要望に対して、ジールはAWSとデータ活用のスキルや知見を持った専任の担当者をチームメンバーとしてアサインする、という柔軟な対応をしてくれました。これであれば、自由度の高い対応が期待できると判断し、ジールをパートナーとして選択しました」(謝花氏)

【AWS導入事例②】株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン様への導入事例

多様なデータが適切に可視化され戦略的なデータ分析を実現

 
    • 2009年に構築した基盤では、ハードウエア起因の障害が発生していた

→クラウド化したことで、ハードウエア障害が低減され、今後のスケールアップにも柔軟な対応が可能となった

    • 最新情報を閲覧するための時間がかかっており、常に変化する市場状況においてこのリードタイムはビジネスチャンスを逃してしまう原因と​​​​​​なっていた

​​​​​​→データ連携モデルを改善したことにより、データの利用用途に応じた連携頻度の見直しを実現させ、優先したい情報をタイムリーに提供で​​​​​きるようになった

クラウド導入検討中の企業へマルチクラウドをおすすめする理由

マルチクラウドをおすすめする理由としては、やはり複数のクラウドを組み合わせることで、自社に最適のクラウド環境を実現できる点が挙げられます。 現在はAWSやMicrosoft Azureをはじめとした様々なクラウドサービスが存在しますが、それぞれに強みと弱点があるため、シングルクラウドですべてを完結するのは難しくなっているのが実情です。

その点、マルチクラウドであれば、それぞれのクラウドの持つ弱点を補うことで相乗効果が生まれ、シングルクラウドよりも理想的なクラウド環境を構築しやすくなっています。
実際、国内企業の7割近くが既にマルチクラウドを導入しており、もはや主流な運用形態になりつつあるといえるでしょう。

マルチクラウドの導入によって利益向上につなげる

働き方改革や社会の変化によりクラウド化の流れは今後も続くと予想されます。
そしてクラウドサービスの多様化を背景に、マルチクラウドの導入も加速していきます。
この潮流を積極的に利用していくことは、業務改善や従業員の生産性向上を図り、利益向上につなげていく良い機会です。

ご紹介したポイントを参考に、是非マルチクラウドの導入を検討してみてください。
マルチクラウドの導入に当たっては費用に見合う効果がなければ意味がありません。

しかし自社内部で最適なクラウドを選定することは難しい場合もあります。
そこで確実に効果が出るように導入サポートサービスの利用を検討してみましょう。

ZEALでもマルチクラウドの導入支援サービスを行っており、大手クラウドサービスのAzure、AWS、GCPの導入支援実績が多数あります。 それぞれの違いも熟知しているため、マルチクラウドも安心してお任せください。
お客様の要望に合わせた最適な製品提供からコンサルティング等、様々なサービスをご用意しているので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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