公開日:2021年4月20日

更新日:2021年4月20日

★このコラムは、Voicyをテキスト化し一部抜粋したものです。

今回は、ORACLE社のDX推進室の横山さんにインタビューしました。
横山さんは、北海道にある酪農学園大学と一緒に、豚の分娩開始時刻をAIやIoTの技術を使って予測するという実証実験プロジェクトをされていました。

 

実証実験プロジェクトに至る経緯

酪農学園さんにて、豚の分娩の実証実験プロジェクトに携わりましたが、元々は北海道の稚内市でサクラマスの陸上養殖のプロジェクトを弊社のDX推進室で行っておりました。
それがご縁で、北海道のイノベイター集団、NoMaps様と北海道立総合研究機構様にお話を繋いでいただきました。
職員の業務効率化のプロジェクトです。

酪農学園さんがAIの技術で豚の行動観察や、分析をされたいと弊社にご相談頂きました。
豚の分娩においての課題は、分娩予定日の目途はつきますが、生まれる時間帯を予測することが難しかったことです。
生れた子豚が母豚の下敷きになって亡くなってしまったり、職員の方は、分娩を持ちながらも他の業務もしなければならないので集中できなかったり、寒い地域の場合は、分娩が始まる前に床暖房のスイッチを入れるなど。
豚は一回の分娩で、1頭から16頭ぐらい産みますので、一人で対応するのは非常に大変です。

 

分娩にAIやIoTをどう活用する?

実証実験においては、豚の背後にwebカメラをセットし、豚の行動や運動量の動画データの集積と運動量の計算で、分娩時刻を予測します。
酪農学園の先生のお話や論文を読むと、分娩前の母豚は急に動いたり、落ち着きがなくなったり、急にぐったりすることがあるようです。運動量と分娩時間に相関性があるのではないかという点に着目して、運動量のデータから機械学習のモデルを作って分娩時刻を予測していくようにセットしました。

カメラから収集するデータは、動画のストリーミングで、分娩を控えた母豚の状態を動画で撮影します。撮影の際、被写体にマッチングすると物体追跡機能が働きフォーカスするので、時間あたりの運動量を計算しました。
母豚は、分娩の1週間前に分娩ストールと言われる狭いエリアに移動させます。見守る人がいない時に分娩した場合に、寝返りさせないよう、安全の観点や、カメラの視野から出ないように撮影するためです。
カメラを背後にした理由は、前面にセットしたら給餌器で見えにくく、真上にセットしたら解析に難しいデータであったためです。

 

プロジェクトでの苦労

今回は酪農学園さんに常駐して実証実験に取り組んでいたわけではなく、リモート環境で先生とやり取りしながらカメラの設置など、細かい調整が大変でした。養豚場は通信状況が不安定ということもあり、途中で切れてしまったこともありましたが、先生方にもご協力いただきながら、なんとか乗り切りました。
その他、3ヶ月という期限の中で、生まれる豚の数が決まっており、機械学習ではサンプル数が多いほど良いと言われているのですが、限られた中で成果を出すというよりは、その時点での期待が持てるような結果を出すという点が大変でした。1ヶ月間、毎日豚の出産があるわけではないので、1回、1回を大事にしました。

 

面白かったこと

予定日の前日に分娩促進剤を打ちます。一般的にはその後、24時間から28時間後ぐらいに生まれます。促進剤は、日中の分娩を見込んで、必ず朝の8時半から9時ぐらいに打つと決められております。

ところが、私がたまたまリモートで映像を見ていた、深夜1時ぐらいに分娩が始まり、子豚が生まれました。まだ促進剤を打ってから16時間ぐらいしか経過していなかったため、夜中でしたが慌てて先生に連絡を入れました。
「分娩が始まってしまいました!このまま放っておくのも不安ですし、判断ができないのでお願いします!!」と(笑)

そうかと思えば、翌日の昼を過ぎても全然生まれないというパターンもありました。
分娩中にちょっと介助したりすることもありますので、やはり人手は必要だと感じました。分娩が長時間になると、余計に豚も疲れてきてしまいますので。

 

酪農学園側の反応

分娩の時間を予測するという事は、酪農学園の先生からすると夢の話だと思われたのだと思います。ただ、1分1秒までの正確な予測はできませんでしたが、ある程度の時間の傾向はわかりました。その点はご評価いただけたと思います。
ある時間帯においては、分娩を予測した時間と、実際に測定した時間のずれがほとんどない時間がありましたので、今後は全期間での精度を上げたいと思います。

予測値の出し方は、促進剤を打ってからのデータを解析します。1分間あたりの動きの最大値や、動きの標準偏差のばらつき、最小値、平均値など、統計量に基づいて解析しています。
なぜ統計量なのかという点ですが、ゆっくり定常的に動くような豚がいたり、急激に動いて止まったりする豚がいると、平均が同じだったとしても、その標準偏差が変わってきてしまいます。同時にファクターが違ってきてしまうため、できる限り統計値で当てはめて考えました。
やはり実際測定をしてみて、個体差は大きかったです。今後の展開にもつながるお話なんですけど、雑種の豚と純粋な豚の2種類があり、その種類や個体識別についてさらに研究を進めて行きたいと思っています。

 

プロジェクトとしてIoTについて

プロジェクトとしてのIoTを考えた時の課題は、実証実験ではサンプルデータが少なかったため、増やすことが1つです。
2つ目は改善としての取り組みという点で、撮影に関してです。今回カメラの位置は、試行錯誤してベストな位置で撮影ができましたが、今後は正しく被写体を捉えられなかった場合をどうするかが課題です。
3つ目は、新しい取り組みとして、豚の種類、固体識別に関して解析に盛り込んでいくことです。
この継続によって制度面、例えばアラートが上がって通知されたりなど、実用化につなげたいです。

現状は、豚の対面は一度だけで、あとはリモート中心の実証実験でしたので、やはり現場へ行きたいです。実際行ってみないとわからないこともあるでしょうし、肌感覚というところが重要だと思いましたので。
今年度のうち、どれだけ実用性に向かうかという点が一番大事なところだと思います。

他の動物でも応用できるのではないかという話は上がっていますが、牛の分娩はもっと予測が難しいです。
温度やセンサー、行動などで統計を取って研究に取り組まれている企業は多いです。牛に応用できないというわけではなく、応用するにしても牛に関する情報も、全く違う特性があるので、そこを取り入れつつ研究していくと思います。
豚が予測しやすかったのでまずは豚からスタートしました。

 

今後の思い

大学や、養豚場などそれぞれに多くの課題を抱えてところがあるので、社会課題解決と言われるような一次産業の人手不足に貢献して行きたいと思っております。

 

興味がある分野について

AI、IoT分野は3年ぐらい前から取り組み始めました。
それ以前は、公共機関系のセールスや、クラウドのプリセールスでした。データ活用の提案をしているうちに、自身で分析しようと思いました。

大学時代は工学部で、放電プラズマやプラズマ工学という雷の現象を研究する分野の専攻ですが、学生時代から趣味でプログラミングをしていました。
入社して色々な人に出会いましたし、お客様や職場の環境に恵まれて、今、すごく充実した楽しい毎日です。

参考 https://www.rakuno.ac.jp/archives/13647.html

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