背景と課題
DXの実現に向けデータの高度活用に着手。自社のみでの取り組みに見え始めた限界
株式会社BANDAI SPIRITSは、「ハイターゲット市場」と呼ばれる年齢層の高いユーザーに向け、プラモデルやコレクターズトイ、キャラクターくじ、アミューズメント専用景品の企画・開発・製造・販売を行うバンダイナムコホールディングスの完全子会社である。そして、「世界一の総合ホビーエンターテインメント企業」のビジョンのもと、国内だけでなくグローバルにビジネスを展開する同社にとって、競争優位性のさらなる強化のため、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しているという。
その取り組みの1つとして2020年4月から開始されたデータ活用プロジェクトが、「Chara OS」である。メディア部 メディア戦略チームアシスタントマネージャーの亀井 丈嗣氏は、「Chara OSの目的は全社的なデータの共有・分析を行うことで、各事業における意思決定の効率化や迅速化、そして新規事業の創出を促進していくことにあります」と強調する。
株式会社BANDAI SPIRITS メディア部 メディア戦略チーム アシスタントマネージャー
亀井 丈嗣氏
株式会社BANDAI SPIRITS メディア部 メディア戦略チーム チーフ
謝花 浩史氏
また、メディア部 メディア戦略チーム チーフの謝花 浩史氏も「BANDAI SPIRITSは、バンダイナムコグループのパーパスとして、『Fun for All into the Future』を掲げています。ファンであるユーザーが“本当に欲しい”と思う商品づくりに役立てられるデータを探り出し、現場でものづくりをしている人たちや営業・マーケティングのメンバーに提供していくことが私達の最大のミッションです」と付け加える。
ミッションの達成に向け、メディア戦略チームはアマゾン ウェブ サービス (AWS)をインフラに採用したデータ活用基盤を構築した。謝花氏は、「Amazon S3をデータレイクに据えるとともに、AWS Lambdaを用いてデータの加工集計を行っています。そしてBIにはAmazon QuickSightを採用し、データの参照・分析が行える環境を整えました」と説明する。
同社では、この基盤上でデータの収集・分析を行うとともに、社内ユーザーへデータを提供している。利用者からの手応えが得られつつあるなか、いくつかの課題が浮上し始めていたという。亀井氏は、「これまではメンバー二人で、手探りしながらAWSによるデータ活用基盤の構築を進めてきましたが、このやり方が本当に正しいのか、常に疑問を抱えていたのです」と明かす。「さらなるデータ活用の拡大を見据えた際に、当社にとって最適なデータ活用基盤の実現をはじめとして、日々の運用で生じる悩みや課題についても、私達のすぐそばでサポートしてくれるようなパートナー企業が必要と考えたのです」(亀井氏)
また、過去のホストコンピュータ利用の時代から長年にわたって蓄積されたデータに加えて、Webのログデータは膨大な量となっており、なかには億単位のレコード数を有するデータもあったという。この膨大な量のデータを用いた分析を行おうとしても、ETL処理が時間内に完了せず異常終了するという問題もあった。「宝の山」ともいえる膨大なデータ資産を活かせず、直近1~2年のデータを用いた分析がやっとの状態だったという。
採用のポイント
日々生じる課題やタスクに専任メンバーが柔軟に対応
チームの一員となって伴走してくれるジールを選択
そうした同社が抱えるさまざまな課題や悩みを解決するためのパートナーとして選ばれたのがジールである。亀井氏は「ジールが開催するセミナーに参加したこともあり、その名前は以前から認知していました。また、ボイスメディア 『Voicy』でジールのコンサルタントがパーソナリティを務める「わおんDX」チャンネルも視聴しており、好印象をもっていたことからジールに相談をしました」と振り返る。
パートナーの選考過程では複数のベンダーにも提案を依頼したが、最終的にジールを選んだ決め手となったのが、プロジェクトに臨むにあたっての「対応の柔軟性」にあったという。亀井氏は「今回のプロジェクトは、『しっかりと課題や要件を固めて、システムを構築する』というタスク単位での見積、発注ではなく、アジャイル開発のように『都度、浮上する課題や要件に臨機応変に対応してもらえる』ことを重要視していました」と話す。
「こうした当社の要望に対して、ジールはAWSとデータ活用のスキルや知見を持った専任の担当者をチームメンバーとしてアサインする、という柔軟な対応をしてくれました。これであれば、自由度の高い対応が期待できると判断し、ジールをパートナーとして選択しました」(謝花氏)
導入のプロセス
データ活用基盤の改善から日々発生するタスクの対応までジールが全面的にサポート
ジールの支援のもと、BANDAI SPIRITSのさらなるデータ活用の強化に向けたプロジェクトが始まった。今回、ジールは既存のデータ活用基盤の改善から、日々の運用で発生するタスクへの対応など、多方面にわたる支援を行っている。
プロジェクト推進・技術支援のポイント①
既存のデータの状況を可視化・整理し、データ活用のあるべき道筋を策定
最初に実施したのは、今後のデータ活用強化、改善に向けた方向性の策定である。ジールの早川 佳克は、「今回、ステップごとに明確にタスクを定めてプロジェクトを進めるのではなく、データ活用の強化に向けて何を行うべきか、大枠を定めたうえで、都度、対応していくという方向性を提示しました」と説明する。
「そうしたなかで、まず行ったのが、既存システムの状況やデータの運用管理方法の可視化です。その過程で、既存システムの構成や抱えている課題を洗い出すとともに、ドキュメンテーションを整理しました。併せて、類似した処理が行われていたり、変更管理が行われていなかったりしたAWS Lambdaについても、AWS CodeCommitの導入によるソースコード管理を実施しました」(ジール早川)
株式会社ジール データアナリシスプラットフォームユニット コンサルタント
早川 佳克
プロジェクト推進・技術支援のポイント②
Amazon Redshiftの採用により、大容量データの分析が可能に
株式会社ジール データアナリシスプラットフォームユニット シニアアソシエイト
吉田 啓晃
データ活用基盤の強化に向けて、システム改善の側面から先鞭をつけたのは、ETL処理における異常終了の解決である。そのために新たに採用されたのが、高速かつコストパフォーマンスに優れたデータウェアハウスのAmazon Redshift、およびETLツールのAWS Glueである。ジールの吉田 啓晃は、「高い処理性能と拡張性、Amazon QuickSightとの親和性を考慮しAmazon Redshiftを提案しました。同様に、Amazon S3に蓄積されたデータをAmazon Redshiftに受け渡す際のETL処理についても、大容量データに対しても安定かつ、高速な処理を実現するとともに細かなチューニングにも対応するAWS Glueを採用しています」と説明する。
これにより、従来は15分以上連続して行えなかったことで異常終了していたETL処理が、15分を超えても行えるようになり、異常終了の問題が解決、大容量データの分析が可能な基盤が実現された。亀井氏は「これまでは過去1~2年分しか分析対象にできなかったがデータが、それ以前に遡って抽出・集計・参照できるようになりました。この改善が行われたことで、より多面的なデータ分析が可能になっています」と評価する。
プロジェクト推進・技術支援のポイント③
BI画面の改善から外部データの取り込みまで、日々のデータ活用業務を支援
こうしたシステム改善のみならず、日々のデータ活用に関するさまざまな業務についても、ジールの手厚いサポートが提供されている。
ジールの早川は、「BANDAI SPIRITS 様からのご要望に対して、認識合わせをしながらAmazon QuickSightの画面イメージの構築も行っています。このほか、Amazon SNSなどの外部データの取り込みなど、日々お客様から寄せられるデータ活用ニーズに対して、さまざまな対応を行っています」と説明する。
そうしたジールの対応について謝花氏は、「時には、定例会議等で使われる資料のなかで、実際の業務に直結する元データの提出から資料作成までをお願いしてしまうこともあります。スケジュール面で厳しい際にも、ジールは常に迅速な対応を行ってくれてとても感謝しています」と語る。
今後の展開
さらなる「データの民主化」の促進へ
社内教育など、ジールの多方面にわたる支援に期待
ジールの全方位にわたるサポートにより、データ活用基盤の強化に邁進するBANDAI SPIRITS。その最大の効果は、社内にデータの民主化が確実に広がっていることだ。「これまでは、部門ごとにデータ活用に対する意識や取り組みに差がありました。しかし、私達の活動が社内で認知されるとともに、データ活用に対する機運も高まっており、社内における『データの民主化』が広がりつつあります」と亀井氏は語る。
謝花氏も「事実、社内の各部門から『こんなデータがあるのだが、何か新しい分析に使えないか』といった相談が寄せられるようになっています。また、以前であれば、リソースの面やスキル面で対応が困難だった要望にも、ジールの支援を受けられるようになったことで、応えられるようになりました」と話す。
さらに最近では、商品開発を担当する各事業部以外にも、商品管理などバックエンドの業務を担う部門からもデータ利用に関する依頼が寄せられるようになっているという。
引き続きBANDAI SPIRITSでは、ジールの支援を仰ぎながらデータを活用する文化を社内に浸透させていきたい考えだ。「プロジェクト発足から3年が経過し、ようやくデータ活用を加速させるための波を捉えられるようなりました。その波をうまく乗りこなせるように、引き続きジールの支援を期待しています」と亀井氏は語る。そうした支援策の1つとして、ジールのコンサルタントを講師に迎えたデータ活用セミナーなども社内で開催し始めているという。
また、謝花氏も「今後、ジールに期待することは、BANDAI SPIRITS社内にもっと深く入り込んでもらい、私たちだけでは困難な現場からのニーズの吸い上げや、改善に向けたアドバイスや対応をお願いしたいです。今後もチームメンバーの一員となって、BANDAI SPIRITSのさらなるデータ活用に向けた取り組みの支援をお願いしたいと考えています」と強調した。