背景と課題
「Greater Mt.Fuji」におけるエリア戦略を加速させるためジールの伴走支援のもと、データの高度活用を推進
数々のアトラクションを擁する人気アミューズメントパーク「富士急ハイランド」の運営をはじめ、富士山・富士五湖エリアを中心に交通、レジャー、宿泊施設、流通サービス、不動産、情報など多角的に事業を展開する富士急行。
同社を中核とする富士急グループでは、2023年5月に発表した「2022-2025年度 中期経営計画」において「Greater Mt.Fuji」におけるエリア戦略を掲げ、「富士急ハイランドの富士山エリアにおけるゲートウェイ化による、国内外からの観光客の取り込み強化と、ライドパークとしての進化」、「箱根・熱海エリアへの事業展開」、そして、「デジタルプラットフォーム化の推進」の3つを柱に据え、事業変革に取り組んでいる。
中でも、富士急グループのデジタルトランスフォーメーション(DX)の中核を担っているのが、デジタルプラットフォーム化の推進だ。富士急行 企画部 経営企画グループ 次長の羽田 亮太氏は「デジタルプラットフォーム化の目的は、富士急グループの事業の主力である富士山麓エリア内に数ある観光・宿泊施設、そして交通機関をデジタル技術で横断的に結ぶことで点から面へと展開し、顧客回遊性を向上させ、訪問する観光施設数、観光客数を増加させることにあります」と説明する。
富士急行株式会社 企画部 経営企画グループ 次長
羽田 亮太氏
そのための施策として、観光施設から宿泊施設、交通手段までをシームレスに予約できるシステム「Fujiyama Connect」を自社開発し、2023年4月から運用を開始。運用開始後、富士山周辺の登録施設や販売商品の充実を図っており、Fujiyama Connectを利用する顧客も堅調に増加しているという。
デジタルプラットフォーム化に加え、富士急グループでは、データの高度活用にも踏み出した。刻々と変化する外部環境に応じて適切な経営施策を講じるために、グループ企業約40社の売上データを収集し、Microsoft Power BIを用いてグループ全体の連結売上高を日次ベースで可視化できる基盤も構築した。
「さらに現在では、Fujiyama Connectをはじめ、顧客接点に関連する様々なシステムに蓄積された膨大なデータを解析し、各施設の改善点を導き出したり、顧客データに基づいたワンツーワンマーケティングやマーケティングオートメーションへつなげていくなど、富士急グループの収益力向上を高めるためのCDP(カスタマーデータプラットフォーム)の構築も推進しています」(羽田氏)
これらのデータ活用の取り組みを伴走支援してきたのが、ジールである。Microsoft Power BIの導入からデータ収集のための仕組み作り、そしてMicrosoft Fabric を用いたCDPの構築まで、多方面にわたり富士急グループをサポートし続けている。
採用のポイント
データ活用人材の育成に向けジールの「データドリブンワークショップ」を採用
データ活用の高度化に向け積極的な取り組みを進める富士急グループだが、その取り組みを加速させるために不可欠だったのが、データ人材の育成である。
羽田氏は「富士急グループの全社員が必要なデータを自ら入手、分析して日々の業務に活かせる“データの民主化”を実現したいと常々考えていました。そのためにはシステムを整備するだけでなく、これまで業務であまりデータを活用してこなかった社員にも、データドリブン思考やマインドを育んでもらうことが不可欠だったのです」と説明する。
そうしたデータ人材育成に向けて採用されたのが、ジールの教育サービス「データドリブンワークショップ」だ。これは、BIツール、データ活用ツールを導入する前の企業、あるいは既にデータ活用ツールを導入しているものの、一部の社員や部門での利用にとどまっている企業を対象としたトレーニングサービスである。講義や実践的なワークショップ、参加者同士によるグループディスカッションを通じて、データの価値やデータを利活用するメリットを訴求するとともに、データ活用の必要性やツールの有用性の理解、そして、社員のデータ活用のリテラシー向上を図る。
「一般的なDX研修やデータ教育は、内容が概論的であったり、逆にツールの使用方法に特化していたりするケースが少なくありません。受講者にも自身の業務との関連性をあまり感じてもらえず、“DXやデータ活用は他人事”という感覚を与えてしまっていました」と羽田氏は語る。
「一方でジールのデータドリブンワークショップは、業務に即した実践的なものであり、データ活用の有用性を理解してもらうための入口として最適であると感じました。特に採用の決め手となったのが、実際のPOSデータ3000万件をサンプルに使ってデータ活用ツールの有用性を体験できることです。これであれば受講者も自身の業務と照らし合わせてイメージしやすい、と判断しました」(羽田氏)
導入のプロセス
1回あたりの受講者の人数を限定しデータ活用のメリットを分かりやすく丁寧に伝授
今回、富士急グループは全4回のワークショップを開催。グループ会社から営業やマーケティング、宣伝、総務、経理、人事など様々な部門から招聘された合計40名の社員がデータドリブンワークショップを受講した。
プロジェクト推進・技術支援のポイント①
DX思考習得の入口として「データドリブンワークショップ」を提案
株式会社ジール 営業本部 コンサルティング営業2部 グループリーダー
佐藤 佑樹
プロジェクトを担当したジールの佐藤 佑樹は、「今回、富士急グループ様が期待されていることは、ツールの操作方法の習得ではなく、DX思考を習得することでした。そうした観点で『ジールがどのようにお役に立てるのか』を常に考え続けてきました」と振り返る。
「そこで、富士急グループ様が掲げる人材育成の長期ビジョンを達成するために、どのような支援サービスが最もフィットするのか、何度も摺り合わせさせていただきました。そうしたコミュニケーションを重ねた結果『なぜデータ分析が必要か』といった考え方を根付かせ、データ活用の文化の醸成を目指すためのアプローチとして『データドリブンワークショップが最適である』と関係者間で納得感を持って採用していただけたと考えています」(佐藤)
プロジェクト推進・技術支援のポイント②
各回の受講者人数を限定し、寄せられた疑問等にも丁寧に対応
また、受講者の理解を確実に深めてもらうためにも、1回あたりのワークショップの受講者の人数も限定した。
「富士急グループ様からは、『グループ内から選抜された40名程度の社員にワークショップを受講してもらいたい』というリクエストをいただいていましたが、より効果的なワークショップを実施するために、1回のワークショップの受講者を10名程度に限定させていただきました。このように限られた人数でワークショップを実施し、受講者から寄せられる疑問やデータ活用に関するインサイトを取りこぼさぬようにしました」(佐藤)
プロジェクト推進・技術支援のポイント③
受講者にデータ活用のメリットを分かりやすく訴求
データを活用せずとも、これまで自身が積み重ねてきたノウハウやコツを駆使すれば、業務を円滑に遂行できると考えている社員は少なくないだろう。「しかし、データを活用することによって、作業や準備、検証にかかる時間を短縮できるようになるだけでなく、思考の整理がスムーズになったり、漠然と思い描いていた事象に確証を与えたりするといったメリットを享受できるようになります」と、今回のデータドリブンワークショップで講師を担当したジールの内田は語る。
「そうしたメリットを分かりやすくお伝えするとともに、『データ活用と言う新たな業務を覚えるわけではありません。皆様の業務をよりやりやすく、よりステップアップさせるための方法を紹介するワークショップなのです』ということを常に意識し、また、実際の言葉にして伝えられるよう、心がけています」(内田)
導入効果と今後の展望
データ活用の重要性を楽しみながら理解
受講者の満足度も5段階評価で平均4.05に
データドリブンワークショップは、受講した社員から高い評価を得ている。今回、受講者として参加した企画部 経営企画グループ 係長の南條 亜矢乃氏は「どのような場面でデータを活用すればメリットを得られるのか、分かりやすく説明してもらえ、楽しみながらデータ活用の大切さを学ぶことができました。また、データ分析の視認性の重要性についても理解でき、強調したい数値に着目してもらえるような表現方法など、すぐに現場に利用できるテクニックを教示してもらえたこともありがたかったです」と評価する。
富士急行株式会社 企画部 経営企画グループ 係長
南條 亜矢乃氏
富士急行株式会社 企画部 経営企画グループ 主任
金子 知弘氏
運営側としてプロジェクトに参加した企画部 経営企画グループ 主任の金子 知弘氏は「どの回でも、ワークショップやディスカッションにおいて積極的に意見を交わしたり、議論を行ったりするなど、盛り上がっている様子が見受けられました。また、講師の方も親しみやすく、一方的に講義を行うのではなく、常に受講者とコミュニケーションを図ろうとしている様子も印象的でした」と話す。
また、データドリブンワークショップの終了後、参加者40名にアンケート調査を行ったところ、5段階評価で満足度の平均が4.05、理解度も平均4.16と高い評価を得られたという。
さらに個別回答では、「仮説の立て方と検証の重要性を学ぶことができた」「BIツールの使いどころが分かり、仮説の検証プロセスがスムーズになり、データ活用が効率的に行えた。そのおかげで業務の可能性も広がった」という声も寄せられている。さらに、データドリブンワークショップの受講後、すぐに自身の業務でBIツールを活用した分析に着手している社員も見受けられはじめているという。
CDPの構築と並行して、データドリブンワークショップを通じてデータ活用人材の育成にも積極的に取り組む富士急グループ。羽田氏は、「人材育成にあたっては継続的なフォローが重要であり、これからもデータ活用のための研修を定期的に実施していきたいと考えています。データのスペシャリストであるジールには、今後、富士急グループのデータ活用のレベルの段階が上がった際には、より高度な教育サービスの提案、提供も期待しています」とジールへの要望を語った。