データ活用の風土づくりにPower BIの導入を検討
―― Microsoft Power BI(以下、Power BI)のトレーニングを実施しようとした背景について教えて下さい。
北中氏:日揮グループでは2018年12月に将来を見据えた新たなIT戦略として「ITグランドプラン」を打ち出しました。2030年を目標に、AIやIoTなどのデジタル技術を積極的に活用して業務を高度化しようというものです。
そこでは、データに基づいた意思決定を行うためにデータ分析基盤を整備し、見積もり業務やコスト、納期の予測など、高度なデータ活用が求められており、同時に、データ活用を普段の業務に生かせるような人材育成にも重点を置いています。
そのため、データ収集からデータの可視化を社内に定着させ、データ活用の土台を作ることになりました。そして、ベースとなるデータ分析ツールには、すでに導入していたMicrosoft 365との親和性が高く、コスト面でも大規模導入が可能であることから、「Microsoft Power BI(以下、Power BI)」を選定しました。
喜多氏:私自身もPower BIについて勉強したいと考えて、マイクロソフトとジールが共催していた「Power BI Dashboard In A Day」というハンズオン形式のイベントに参加しました。2019年夏のことです。
イベントの内容はとても良くできていて、Power BIをデータ活用に使うのであれば社員の皆さんに受講してもらったほうが良いのではと考えて、マイクロソフト認定パートナーであり、Power BIを活用したデータ分析や研修において実績が豊富なジールに相談しました。その後、当社のデータ活用を推進する目的でトレーニングプログラムとして社内で提案したところ、すぐに承認が下りました。
北中氏:Power BIの導入の検討を進めていて、さらなるデータ活用を推進するタイミングだったので、ジールのトレーニングをスムーズに決定することができました。
データ活用の取り組み状況に応じて、ジールが効果的なプログラムを提案
―― トレーニングの内容などはどう決めていったのでしょうか。
喜多氏:ハンズオンイベントの当社が想定していた内容と合致していたので、基本は同じ内容にしてもらいました。ジールにヒヤリングしてもらったうえで、トレーニングの内容で変えたのは、社内でデータ活用を広めるために、レポート管理よりもレポート作成の比重を増やしてもらったことです。
佐野:トレーニングの内容を決めていく過程では、日揮ホールディングス様のITリテラシーや、データ分析への取り組みがどの程度進んでいるのかを細かく伺いました。そのうえで、初めて学習する方にも配慮し、BIツールに関する用語の説明を重点的に行うことや、さらに別の資料を用意して詳細に説明することが必要かといった検討や工夫をしていきました。
喜多氏:対象者については、ITリテラシーを不問にしましたが、特定の部門に偏らないように気をつけました。多くの方に受けてもらった方がその後の広がりが期待できるからです。結果的には、各部門から数名ずつが参加してくれました。
人数は質問に対してフォローできるように、1回20名としました。2回目からは、新型コロナウイルス感染拡大の影響でオンライン開催になりましたが、申し込み状況を見ながら年間5回くらいのペースで開催しています。ニーズが高く、今のところ募集するとすぐに埋まってしまう状況です。
―― オンラインでの実施についてはいかがでしょうか。
齋藤氏:画面で講師の操作に合わせて動かしながら学べるので、オンラインとの相性は良いと感じました。アンケートでも「問題ない」と答えた方がほとんどです。むしろ大変だったのは講師の方だったのではないかと思っていました。受講者の顔を見ることができずに反応が読み取れない分、進めにくかったのではないでしょうか。
佐野:オンラインでは受講者の顔を見ることができないため、皆さんの反応が読み取りにくい点はありました。しかし受講された方から、業務に使うことを想定した質問が多かったことが印象的で、データ活用における熱意が伝わりました。「プラントの運転データ解析を進めたい」といった具体的なものもありました。ジールのトレーニングを通してPower BIを使うための具体的なイメージを持っていただけたのではないでしょうか。
社内のデータを使って、データ活用を実践する人が増えた
―― トレーニングを受けたことで、どんなところに効果が現れていますか。
齋藤氏:私も受講したのですが、受講者の習熟レベルはまちまちで、約半分はPower BIを一度も使ったことがない人たちです。ただ、基礎から学んでレポート作成に取り組みたいという前向きな意識で臨んでいる人が多いと思います。
トレーニングでは基本的な操作からレポートの作成、共有まで教えてもらうのですが、質問やアンケート回答から確実にレベルアップしていることがわかります。アンケートでは8割から9割の人が「満足した」と答えてくれています。
もともとExcelやSharePointにデータがあるので可視化したい、といったニーズは高かったのですが、Power BIのトレーニングの業務への応用は広がっていると感じています。実際にプラント建設で使う図書データや、人事部門が利用する有給休暇の消化率を示すデータなど、各部門の業務で扱っているデータを、具体的にPower BIで可視化してレポートにする取り組みも進むケースが増えてきています。
喜多氏:講座自体の品質は高く、理解は相当進んだはずです。講座は、整理した情報を1日かけて対面で教えてもらうので、効率的に学習できます。
オフラインで実施した1回目には、自分で仕事のデータを持ってきて、講座終了後に30分残って質問している人もいましたが、ジールの講師が根気強く対応してくれました。皆さん、知りたいことはそれぞれ違いますが、個々にフォローしてくれたので大変ありがたかったですね。
社内のTeamsを活用したPower BIのコミュニティによってデータ活用のレベルアップを図る
―― トレーニング後、社内のデータ活用の定着に向けて取り組んでいる点はありますか。
喜多氏:Power BIのコミュニティを社内のTeams上に立ち上げて、Power BIに関する情報や事例などの共有に役立てています。
Power BIのコミュニティは、1回目が終わってすぐの9月末、トレーニング受講者のフォローのために立ち上げ、12月時点で370名以上の人が参加してくれています。皆さん、Power BIの先駆的な意識が高く、積極的にお互いに助け合うための情報発信をしてくれているのが特徴で、Power BIで分からない点などを教え合うような文化も少しずつ醸成され、会社としてPower BIの活用を支援する体制が整ってきたと実感しています。
全社でのデータ活用活性化を目的として、Sharepointを利用しPower BIレポートを公開
―― 今後の展開についてはどうお考えでしょうか。
喜多氏:まだまだ社内のニーズはありますから、来年以降も定期的にトレーニングを実施して、日揮グループとしてのデータ分析・活用の裾野を広げていきたいと考えています。この活動を続けていくことで社内のコミュニティもより大きくなって盛り上がっていくと思います。
当社は今まで経験豊富なプロジェクトリーダーが活躍してきましたが、データ活用が進むことで若手の活躍も増えてくると期待しています。過去100件のプロジェクトのデータを可視化したグラフを大画面に投影して、それを分析しながら決断をしていくような姿が理想ですね。
Power BI自体も、機械学習の機能が加わるなど進化していきますから、より高度なデータ分析ができるようになるのではないでしょうか。そのためにもデータ基盤を整備してデータを蓄積していきます。
北中氏:データ活用のレベルについては、これからという部分もあります。社内ではExcelを使って表やグラフを作っていますが、例えば、どんなグラフが適切なのかを理解しながら業務に活用する視点も今後重要になってきます。Power BIに精通すれば、グラフ本来の価値を生かした表現ができるようになり、それが素早く正確な判断につながるのではないかと考えています。
全員でなくてもデータ活用のリテラシーの高い人が増えることで、全体の底上げができて、平均レベルが上がってきます。優れた先進的なレポートが社内で共有されるようになることで、データ活用のレベルの差もわかってきます。それに刺激されてレベルアップを目指していくようなプラスの循環を生み出すことが当面の目標です。