背景と課題
基幹系システムのリプレースを契機に
データ分析基盤の構築に着手
株式会社武蔵野化学研究所 管理本部 総務部 部長 堀口 邦洋氏
乳酸・アラニン・ピルビン酸のトップメーカーとしてファインケミカル分野をリードし続ける株式会社武蔵野化学研究所。「合成法」による乳酸の量産に世界で初めて成功したパイオニア企業であり、かつ、現在でも唯一の「合成乳酸」メーカーとしての地位を確立している。同社が開発、製造、販売する有機化学製品は、食品や医薬品をはじめ、電子機器、印刷物など、様々な製品の原料として活用されている。
武蔵野化学研究所においてもDXの推進による業務効率化や革新的な製品の創出は経営課題であり、「武蔵野化学研究所DX3ヵ年計画」を策定し取り組みを進めてきた。そのDXの根幹に据えられていたのが、基幹系システムとして利用していた「OBIC7クラウド」の新バージョンへの更新と、それを契機としたデータ分析基盤の構築である。
管理本部 総務部 部長の堀口邦洋氏は、「中でも優先事項として挙げられていたのが、当社製品に関する研究開発の成果を詳細に可視化するためのデータ分析でした。当社は、70年以上にわたって乳酸およびその誘導体に関する研究と開発、製造に携わってきましたが、製法技術の進化や新原料の登場に伴い、今もなお、新しい製法の研究に取り組み続けています。そうした中、経営層から現在の研究開発の状況や成果をいち早く可視化するための、データ分析環境の実現が求められていたのです」と語る。具体的な対象として選ばれたのが、製品製造の出発点となる原料である「出発原料」の原価に関するデータ分析だった。
これまで出発原料原価に関する分析レポートは、専任の担当者がOBICの汎用検索機能を用いて製造実績などから必要なデータを抽出した後、複雑な関数を駆使したExcelファイルを用いて作成していた。そうしたことから、分析レポートの作成は属人化していただけでなく、複数の原料、中間品の組み合わせを記録した製造実績データが膨大であることからExcelファイルの容量は80MB以上にも膨れ上がり、起動させるのに20分以上もの時間を要していたという。
採用のポイント
ジールの伴走支援のもとDr.Sumを活用したデータ分析基盤を構築
武蔵野化学研究所は、出発原料原価をはじめ、営業月報や生産関係報告書など、様々なデータの分析や可視化を行うための基盤構築に向け、プラットフォームの選択に着手する。複数のソリューションを比較検討した結果、最終的に選ばれたのが、ウイングアーク1st社のデータ活用基盤「Dr.Sum」、およびデータ分析ツールの「Dr.Sum Datalizer for Excel(以下、「Datalizer」)」だった。「直接の採用理由は、オービックから提案を受けたことにありました。ほかのデータ分析基盤も検討しましたが、Dr.SumはOBIC7と数多くの連携実績を有していたことを評価し導入を決定しました」と堀口氏は説明する。
そして、データ分析基盤構築のパートナーとして選ばれたのが、ジールだった。「OBIC7とDr.Sum、Datalizerを連携させたデータ分析基盤の構築に最適なシステムインテグレーターとして、同じくオービックから紹介されたのがジールでした。実は今回がジールとは初めての取引となったのですが、当社のデータ分析基盤構築に関する要望をヒアリングしながらうまく汲み取り、かつ、具体的な要件として提示してくれました。さらに当社が決断しやすいよう、スケジュールや求める機能要件に対する能否についても、常に明確に答えてくれました。加えて、こちらからの質問に対する回答のレスポンスも早く、『ジールであれば安心して構築を任せられる』と判断しました」と堀口氏は振り返る。
導入のプロセス
すぐに分析に着手可能な仕組みづくりから内製化に向けた教育サポートまでジールが対応
2023年7月から武蔵野化学研究所のデータ分析基盤の構築がスタート。ジールによる親密なサポートのもと、導入作業はスムーズに進み、同年10月にはデータ分析基盤の本番運用に漕ぎつけることができた。
プロジェクト推進・技術支援のポイント①
使いなれた既存Excelファイルの見た目に近い、画面作成に注力
求められていた要件の1つが、既存の出発原料原価の分析、レポーティングに用いられていたExcelに近い画面表示を行うことだった。ジールの佐藤暢太はその要件に対して次のような対応を実施したと説明する。
「既存の出発原料原価を集計しているExcelファイルに近いレイアウトを再現するため、まずは必要な項目の洗い出しを実施しました。そうした中、新データ分析基盤へ移行するにあたって、基本機能をそのまま利用したのでは必要となる複数の項目が集計できず、手戻りが発生しそうな箇所を見つけ、武蔵野化学研究所様に報告し確認を行いました。その上で、複数の集計処理を同時に実行する『マルチ集計定義』を利用することで、最終的に武蔵野化学研究所様が求める要件を満たした分析画面を作成できました」
株式会社ジール データドリブンサービスユニット データドリブンコンサルティング2部 コンサルタント
佐藤 暢太
プロジェクト推進・技術支援のポイント②
拡張性や運用の容易性を考慮し、テーブルリストを先読みして実装
株式会社ジール データドリブンサービスユニット データドリブンコンサルティング1部 シニアアソシエイト
坂元 亮
また、運用開始後の利便性を向上させるため、ジールの坂本亮は次に説明するような対応を行った。
「今回、武蔵野化学研究所様からのご要望の1つに、データ分析の仕組みを内製化していきたい、というものがありました。そこで、本番稼働後に武蔵野化学研究所様が内製化による運用をスムーズに進められるよう、Dr.Sumに連携するOBICビューをリスト化することで、連携対象のビューが追加されても、ビュー名をリストに追加すれば、比較的スムーズにDr.Sumに反映できるような仕組みを武蔵野化学研究所様に提案、実装しました」
プロジェクト推進・技術支援のポイント③
内製化に向けて教育サポートを提供、スキルトランスファーを実施
先にも述べたように、武蔵野化学研究所ではデータ分析の内製化を目指している。当初は出発原料原価以外にも、営業月報や生産関係報告書についてもデータ分析基盤上で取り扱える仕組みをジールに依頼することを検討していたという。しかし、コストと優先順位を考慮した結果、出発原料原価に関する部分のみをジールに依頼し、残りについては内製化することを決定する。
そうした内製化を支援するため、ジールは教育支援により、武蔵野化学研究所へのスキルトランスファーを実施した。
佐藤は、「基本的にはジールが作成した出発原料原価のレポートに基づきながら、設定方法や基本的なデータ集計のやり方などを、半日のオンライン教育によりハンズオンを交えながら実施しました」と説明する。
導入効果と今後の展望
データ分析の属人化が解消され必要な情報を担当者が即時活用可能に
Dr.SumとDatalizerを利用したデータ分析基盤は、様々な効果をもたらしている。その1つが、出発原料原価に関する情報をすぐに入手、参照できるようになったほか、複数の担当者が取り扱えるようになったことだ。「現在、出発原料原価に関するデータが製造現場からOBIC7に入力されたら、翌日にはDr.Sumにデータが格納、反映されるようなフローを構築しています。これまでは月末に専任の担当者が当月の出発原料原価のデータを取りまとめてExcelファイルを更新するという作業が発生していましたが、その負荷と時間が軽減され、前日の製造実績に基づいた最新の出発原料原価のデータを参照したり分析したりできるようになっています」と、堀口氏は評価する。
また、データを活用可能な担当者も増え、従来はレポートの作成などを担当者に依頼しなければならなかったのが、自ら分析画面などを通じてデータを参照したり分析したりできるようになっている。「また、詳細なデータが可視化されすぐに参照可能になったことで研究所や技術開発職の担当者も出発原料原価に対して、強く関心を持つようになっています」と堀口氏は話す。
ジールの教育サポートにより、内製化も加速している。その一つが、営業月報で、営業担当者が自らDr.SumとDatalizerを活用し作成できるようになったことだという。堀口氏は、「これまでは私がVBAで作ったツールを用いて営業レポートの作成を行っていましたが、現在では、営業担当者自らがレポート作成できるようになりました。必要なデータもDr.Sumからすぐに抽出できるようになり、月初の営業会議のための資料作成に5日くらいかかっていたものが、月初の夕方には出せるようになっています」と語る。
ほかにも、給与人事データなどもDr.Sumに登録し、労務費に関する分析資料を作成しているが、それまで丸1日かかっていたものが1時間で作成可能になるなど、他部門にも活用が広がっているという。
今後の展望について堀口氏は、さらなる内製化を進めることで社内に存在する様々なデータの分析に取り組み、業務改革を推進させていきたいという。
「現時点では、データ活用に向けた第一歩をようやく踏み出したところだと捉えています。今後は可視化されたデータを利用し、具体的にどのような行動につなげていくのか、模索していきたいと考えています。そうした中で、引き続きジールには、当社のデータ活用をさらに進化させていくための優れた提案やサポートの提供を期待しています」(堀口氏)