背景と課題
データドリブン経営の推進に向け、データプラットフォームの構築と拡大に着手
新しい食文化を創造し続ける「EARTH FOOD CREATOR」として環境・社会課題を解決することで、持続的成長を目指す日清食品グループ。2021年5月に発表した「中長期成長戦略2030」では、グローバルブランドとなった「カップヌードル」の競争優位性を明確化させ、さらなる成長を牽引する中核に据える一方、海外事業と非即席麺事業のアグレッシブな成長により、利益ポートフォリオを大きくシフトさせながら持続的成長を追求していくことが掲げられている。
そうした中長期成長戦略の目標達成に向け、日清食品グループはデジタル技術を活用した事業変革にも取り組んできた。今後強化すべきIT施策として、「サイバーセキュリティ」「グローバルITガバナンス」「業務部門のデジタル活用支援」「先進ネットワーク/モバイルデバイス」、そして「“データドリブン”経営に寄与する基盤整備」の5つを策定。「これらの中でも、最もゴールまでの道のりが長く、かつ、重要度の高い施策がデータドリブン経営に寄与する基盤の整備です」と強調するのは、執行役員・CIO(グループ情報責任者)の成田 敏博氏だ。
日清食品ホールディングス株式会社 執行役員 CIO(グループ情報責任者)
成田 敏博氏
データドリブン経営を推進する背景には、次なる成長を目指すためにも、これまでの勘や経験に依存したビジネス活動から、客観的なデータに基づく意思決定、行動へシフトさせていく、という経営陣の強い決意があったという。
このミッションを遂行していくために2023年11月に設立されたのが、データ活用のための専任組織、データサイエンス室である。成田氏は、「データサイエンス室の使命は、日清食品グループを社員が自発的にデータを使いこなす組織へと変革させていくことにあります。そのための取り組みの1つとして、全社の膨大なデータを分析・活用するためのデータプラットフォームの構築と活用拡大を、データサイエンス室が主導して進めています」と説明する。
データプラットフォーム構築の背景について、データサイエンス室の山縣 一慶氏は次のように補足する。「従来、日清食品グループでは業務や部門別にシステムが構築されており、システム間のデータ連携も行われていなかったため、それぞれのシステムが保有するデータを横断的に収集し、分析することが困難でした。そこで、グループ全体で共通利用できるデータプラットフォームの構築に踏み出したのです」(山縣氏)
また、データプラットフォームの重要な役割の一つであるデータ分析の強化を目指し、現場の担当者が自らデータの分析・可視化できるBIツールの利用促進にも取り組んでいる。社員がデータを自由に扱える環境を整備するとともに、データ活用の文化を醸成していくことも狙いの一つだ。
採用のポイント
データプラットフォームの内製化を前提とした伴走支援を提供してくれるジールを高く評価
日清食品ホールディングス株式会社 情報企画部 データサイエンス室
山縣 一慶氏
日清食品グループのデータプラットフォーム構築・運用を伴走支援してきたのが、ジールである。2016年、Microsoft Power BIを活用したグローバル共通の経営ダッシュボード構築を支援して以来、ジールは日清食品グループのデータ連携・分析基盤の導入・構築をサポートしている。ジールをパートナーとして起用し続ける理由について成田氏は、「私たちが最終的に目指しているのは内製化です。そうした意図を十分に理解した上で、システム構築ではブラックボックス化を回避し、私たち自身が運用できるような仕組みを作り上げてくれること、かつ、データ活用の知見やノウハウを蓄積するために手厚くサポートしてくれることがポイントです」と話す。
今回のデータプラットフォームの構築において、ジールは新規導入するDWHの選定をサポート。日清食品グループはジールの提案やPoC支援のもと、クラウド型DWHの導入を決定した。山縣氏は、「クラウド型DWHの導入にあたって、ジールは技術や機能に関する知見を教示してくれただけでなく、社内展開に向けた推進方法についても細かくアドバイスしてくれました」とジールのサポートを評価する。
分析基盤活用拡大のプロセス
ジールの手厚いサポートにより、様々な部門でのデータの利活用が加速
データドリブンを推進するための分析基盤となるMicrosoft Power BIについても、ジールのサポートを得て、日清食品グループの様々な部門で活用が広がっている。情報企画部 データサイエンス室 主任の小郷 和希氏は、「グローバル経営ダッシュボードをはじめ、セールス部門における出荷・販売実績の統合分析など、ジールの手厚い支援を受けながら、分析画面や実績レポート等を作成し、活用しています。近年では、セールス部門だけでなくサプライチェーン部門においてもMicrosoft Power BIの活用が進んでいます」と説明する。
日清食品ホールディングス株式会社 情報企画部 データサイエンス室 主任
小郷 和希氏
プロジェクト推進・技術支援のポイント
内製だけでは困難な案件に、高度な知見に基づく密なコミュニケーションで側面サポート
株式会社ジール ビジネスアナリティクスプラットフォームユニット コンサルタント
小林 俊也
Microsoft Power BIの利用促進に向け、ジールはより高度な活用を促進するための機能開発や技術支援といったテクニカルサポートを提供している。その一例が、日清食品の営業ブロック長会議で利用される販売実績レポートの作成支援だ。ジールの小林 俊也は、「販売実績レポートの作成では店舗の実売上データや販促データなど、日清食品社内の様々なシステムから必要なデータを取得し、統合しています。
また、レポートの作成では、定型化されたもの以外に『新しい切り口から実績データを分析したい』というご要望が寄せられるケースもあり、スポットでの対応も行っています。そうした場合にも、『どのシステムからどのようなデータを収集し、どのような見せ方をすればよいのか』について、ご担当者と密にコミュニケーションを取りながら、対応にあたっています」と語る。
小郷氏は、「私たちは内製化に軸足を置いていますが、現場からの依頼の中には、データサイエンス室のスタッフだけでは対応しきれないもあります。データ連携の仕組みが複雑なものや、高いパフォーマンスが要求されたりするもの、さらには漠然としたレポートのアイデアはあるものの、実装に落とし込むのが困難なものなどさまざまです。そうした難易度の高い要望にも、ジールの高度なテクニカルサポートを受けることで対応できるようになっています。ジールのサポートは、私たちにとって”頼み綱”となっています」と評価する。
導入効果と今後の展望
システムと人材の両面でデータドリブン経営を加速
ジールには道先案内人としての役割を期待
クラウド型DWHの導入により実現されたデータプラットフォームは、既に日清食品グループに大きな効果をもたらしているようだ。山縣氏は、「現時点で得られた効果は2つあります」と強調する。
「まず、データプラットフォームに様々なシステムからのデータが蓄積、統合されるようになったことで、現場の利用者にデータを届ける時間が圧倒的に短くなりました。これまで週次でしか参照できなかったデータが日次で見られるようになり、意思決定のスピードアップに貢献しています。そしてもう1つが、『データドリブンを推進していく』という意識が社内に醸成され始めていることです。データプラットフォームが整備されたことで、利用者の利便性が向上したことが大きな要因だと考えています」(山縣氏)
日清食品ホールディングス株式会社 情報企画部 データサイエンス室
粟野 志穂氏
一方、Microsoft Power BIも現場の担当者に数々のメリットをもたらしている。これまではレポートを作成する際、個別にデータをダウンロードし、Excelを用いて手動で集計していたが、Microsoft Power BIの活用しながら、ジールが必要なデータを効率的に取得する仕組みを整備したことで、作業負荷の低減とおよび作業時間の短縮に繋がった。さらに、週次計画の実績等を毎週末に参照できるようになり、週明けに行われる定例会議での実績報告を待たずとも事業の現況を把握できるようになったという。
今後、さらなるデータドリブン経営の推進に向け、データサイエンス室は引き続きデータプラットフォームを強化していくとともに、組織体制も拡充していく構えだ。そのための重点施策の1つが、データ人材の採用/育成である。成田氏は「キャリア採用はもちろん、大学でデータサイエンスを学んだ新社会人の方々の採用も積極的に進めています」と話す。
そうした人材の一人が、2023年4月、新卒社員として日清食品ホールディングスに入社した粟野 志穂氏だ。滋賀大学 データサイエンス学部で学んだ後、日清食品ホールディングスに入社した同氏はデータサイエンス室に配属となり、日々、データ分析業務に邁進している。粟野氏は、「学生時代に習得した知識やスキルを存分に活かせる企業で働きたいという強い思いがありました。担当している業務では、これまで学んできたプログラミングや機械学習の知識を直接ビジネスの現場で活かすことでき、とてもやりがいを感じています」と意欲を見せる。
成田氏も「物心ついた時からデジタルデバイスやSNSを利用してきた”デジタルネイティブ”の感性や価値観は、データサイエンス室、ひいては日清食品グループに新しい風を吹き込んでくれると期待しています。また、学生時代にデータサイエンスの基礎を身に着け、産学連携の取り組みなどで実践を垣間見た経験を持つ方々は、我々にとって非常に魅力的な人材です。今後もこうした方々にチームに加わってもらい、入社後できるだけ早いタイミングでビジネスの現場で活躍してもらいたいと考えています」と期待を寄せる。「今後、そうした人材に対するデジタル教育の強化も進めていく予定で、ジールには社内教育やトレーニングなどの支援もお願いしたいと思っています」(成田氏)
こうしたデータ人材の拡充に加え、今後は、AIや機械学習を活用した需要予測にも取り組んでいきたいという。
テクノロジーと人材の両面からデータドリブン経営の実現に取り組む日清食品グループ。
伴走支援するジールに対して、成田氏は次のように要望を述べた。
「ジールには、内製化を推進するという日清食品グループの意図を理解してもらったうえで、私達に寄り添った手厚いサポートを、そして、データ専門のスペシャリストとして道先案内してくれることを期待しています」(成田氏)