背景と課題
「EMPOWERING DIGITAL WORKPLACES」の社内実践を支える部門横断のデータ分析基盤構築が急務に
1970年代にOA(オフィスオートメーション)を提唱し、デジタル複合機を中心とする機器の提供を通じてオフィスの生産性向上に貢献してきたリコー。2017年、デジタル化が進展するなか、同社は働く人の創造力を支え、ワークプレイスを変える新しい価値を提供するものとして“EMPOWERING DIGITAL WORKPLACES”を定めた。EDWは、従来の一般オフィスはもとより、さまざまな業種の現場を含むワークプレイスを対象に、「人と情報をつなぎ、人の伝える力、人の生み出す力を支えること」、「すべてのはたらく場所に、デジタルの力で、人や組織の個性を伸ばし活力を与えること」を目指す。
「EDWの社内実践を徹底的に進め、お客様へ提供できるレベルまで昇華させるために設立されたのが、『ワークフロー革新センター』です」とリコー プロフェッショナルサービス部 ワークフロー革新センター EDW開発室 室長 芝木 弘幸氏は話し、こう続ける。
「現在当社では、全社的にデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、本社・設計・生産・サービスなど各部門で業務プロセスを可視化し、改革に取り組んでいます。また、Microsoft 365やPower BI、作業の自動化ツールPowerAutomateなどを使いこなし、新しい働き方を実践しています。そして、すべてのはたらく場所とはたらく人にデジタルの力を活かすEDWを進めるうえで、課題解決が急務となったのが部門横断でデータを活用できるデータ分析基盤の構築でした」(芝木氏)
株式会社リコー プロフェッショナルサービス部 ワークフロー革新センター EDW開発室 室長
芝木 弘幸氏
採用のポイント
ビッグデータ、DWH、BIに精通するジールの高い技術力を評価
Azure Synapse Analyticsによるデータ分析基盤の先進的なノウハウがポイント
株式会社リコー プロフェッショナルサービス部 ワークフロー革新センター EDW開発室 データマネジメントグループ
佐藤 雅彦氏
従来のデータ活用における課題について、リコー プロフェッショナルサービス部 ワークフロー革新センター EDW開発室 データマネジメントグループ 佐藤 雅彦氏は話す。
「当社では、設計(マシン評価に伴うセンシングデータ)、生産(検査データ、工程データ)、市場(製品の稼働状況データ、保守サービスの履歴データ)など、さまざまなデータを収集しています。各部門のデータはそれぞれのシステムで管理されていたため、『どこにどんなデータがあるのかわからない』、『データがあっても収集や加工に時間がかかる』など、部門を横断するデータ活用が容易ではありませんでした」
データ活用は、EDWやDXのベースとなる。全社でのデータ利用を目的に、各部門で発生するデータを収集し一元管理し、迅速かつ簡単に利用できるデータ分析基盤の構築に向けて、マイクロソフトと、ビッグデータやDWH(データウェアハウス)、BIに精通しているジールに相談したと佐藤氏は振り返る。
「以前に、当社の生産部門におけるデータ活用について、マイクロソフトからパートナーとして紹介を受けたジールに支援してもらったことがあります。その実績と高い技術力を評価し、今回のデータ分析基盤の構築も提案をお願いしました」
リコーのデータ分析基盤として、ジールはデータ統合・DWH・ビッグデータ分析を1つにした「Azure Synapse Analytics」を提案。
その理由についてジールの永田 亮磨は次のように説明する。
「今、データ分析基盤は過渡期にあります。従来型のDWHやデータレイクの仕組みから、分散処理フレームワークApache Sparkや次世代型オープンソースのストレージレイヤー『Delta Lake』を利用し、一歩先行く仕組みへと進化しようとしています。今後、部門を横断する形で膨大なデータを全社で利用するというニーズは増える傾向にあります。こうした要望に対して、高速処理で応えるために分析サービスのAzure Synapse AnalyticsにApache SparkとDelta Lakeを組み合わせた先進的なデータ分析基盤をご提案しました。また、リコー様がすでにBIツールのPower BIを利用されていたので、システム連携の面も考慮しました」
2021年2月、同社はAzureに関する豊富な経験と知識に加え、先進的な提案、コスト最適化を評価し、構築パートナーにジールを採用した。また、Azureに関する貢献と高度な知識、業界でも極めて優秀な専門家であることを示す、「Microsoft MVP(Most Valuable Professional)アワード」に選ばれた永田にも期待を寄せた。
株式会社ジール ビジネスアナリティクスプラットフォームユニット 上席チーフスペシャリスト Microsoft認定 MVP(Data Platform部門)
永田 亮磨
導入のプロセス
時代の一歩先行く先進技術にチャレンジ
ジールの的確な技術支援で導入がスムーズに
数年前からリコーは、Azure上にデータベースを設置し、オンプレミスのWebシステムからPower BIを使ってユーザによるデータ分析やレポート作成を行う取り組みを進めていた。しかし、ビッグデータを扱うには、データベースの拡張性と処理スピードに課題があった。今回、先進技術を活用することで従来の課題を解決している。
Azure Synapse Analyticsによるデータ分析基盤は次のような仕組みだ。社内システムからAzureへ専用線を通じ、Azureを利用しているシステムはSynapse Managed VNet経由で、基盤側でデータを受け取った後は、必要に応じてデータの品質チェックを行う。その後、Apache Sparkを使ってデータを加工し、データレイクにDelta Lake形式でデータを蓄積する。Power BIへのデータの提供は、専用SQL プール上のテーブル、またはサーバレスSQLプールを使ってDelta Lakeテーブルから作ったビューを参照している。 Delta Lakeは、信頼性の高い読み書きを高速かつ同時に実行できることが特長だ。
各部門からアップロードされる膨大なデータを高速処理し、
全社でのデータ活用を実現
データ分析基盤の構築はスムーズに行われ、2021年6月に本稼働した。今回、リコーはAzure Synapse Analyticsをはじめとする時代の一歩先を行く数々の先進技術を実装している。導入がスムーズに進んだのは、ジールの技術支援が大きかったと佐藤氏は話す。
プロジェクト推進・技術支援のポイント①
Azure Synapse Analyticsに関する知見を活かし要件定義の作成を支援
「新しい技術であるAzure Synapse Analyticsに関して、当社には知見やノウハウが不足していたことから、当社側から要件を出し切れませんでした。当社から『やりたいこと』を伝えて、ジールに細部を調整してもらい、うまく要件定義をまとめることができました。また、ジールの技術支援のもとで実施したPoC(概念実証)の構成をそのまま本番環境として導入し、計画通りに利用を開始することができました。PoCの内容は、社内で展開するうえでお手本としています」(佐藤氏)
ジールの永田は、「リコー様のご要望に応じて、Azure Synapse Analyticsの中から必要な機能を選択しご提案し、意見交換をしながら最適な仕組みに仕上げていきました。またPoCの段階で実データを使用し、セキュリティも含めて本番を意識した構成で検証を行いました」と話す。
プロジェクト推進・技術支援のポイント②
運用における課題を解決する先進的な提案
「SQLデータベースにおけるデータ品質のチェックに時間を要することが課題となっていました。ジールに相談したところ、Apache Sparkを使ったデータ品質チェックのテンプレートを提供してもらいました。先進技術を活用した提案ができるという点でも、ジールの技術力を高く評価しています」(芝木氏)
プロジェクト推進・技術支援のポイント③
自社開発を可能とするスキルトランスファー
「ジールには、ハンズオンや技術フォローを通して、スキルトランスファーをしてもらい、当社のメンバーで Azure Synapse Analytics を使った開発を進められるようになりました」(佐藤氏)
導入効果と今後の展望
従来3時間かかったデータ処理が10分以内で完了
部門横断でのデータ活用を開始、今後データの統合範囲を拡大
2021年6月の本稼働から、すでに効果を実感していると佐藤氏は話す。「これまでデータサイズが大きくてデータ活用できなかったものもデータレイクに格納し利用を開始しています。また、従来3時間かかったデータ処理が10分以内で完了できたことには驚きました。処理が速いということは、待ち時間の短縮だけでなく、思考を切らすことなく次の分析が行えるため分析の質も向上します。今後、AzureのAIなどを利用し分析の高度化も図っていきたいと思います。ジールには、Azureの進化に応じてタイムリーな提案を期待しています」
今後の展望について芝木氏はこう話す。「今回、ジールという信頼できるパートナーと組むことができて良かったと思っています。現在、設計・生産・市場などのデータを蓄積して分析し、部門を横断する形で活用も始まっています。市場で稼働しているデジタル複合機からあがってくるデータと生産のデータを照合し、そこから得た気づきを設計にフィードバックするといったデータ活用も可能です。今後、サービスや物流などのデータも統合し、分析の範囲を広げていきます。また、さまざまな部門からデータ分析基盤を使いたいとの問い合わせも寄せられており、社内への活用事例の紹介や、データ資産を整理したデータカタログの整備も必要です。さらに、EDWの社内実践で得た知見やノウハウをお客様に提案し、お客様の働き方改革への貢献を通じてEDWの普及・拡大につなげていくことが、今後の重要なテーマとなります」
創業100年に向けた2036年ビジョン「“はたらく”に歓びを」の実現に取り組むリコー。これからもジールは先進技術と提案力を通じてリコーの取り組みを支援していく。