背景と課題
大学教育改革・学生支援のさらなる拡充を図るべくIR情報を活用
1926年に開学し、2026年に創立100周年を迎える大正大学。大乗仏教の精神である「智慧と慈悲の実践」を建学の理念とし、「4つの人(慈悲・自灯明・中道・共生)となる」を教育ビジョンとする。時代や社会、そして学生の求める声に応え、現在は仏教学部、文学部、表現学部、人間学部、臨床心理学部、地域創生学部の6学部11学科で構成され、2026年4月には高度なデジタル人材の養成を目的とする、情報科学部(仮称)の新設を構想している。変わらないのは、同大学の根幹に息づく建学の理念だ。
同大学は教育、研究、地域貢献などすべてにおいて、TSR((Taisho University Social Responsibility)の理念のもとに大学運営を行っている。2017年に、教育改革・学生支援のさらなる拡充およびTSRマネジメントの強化を図るべく、日本の大学で初めてEM(Enrollment Management)やIR(Institutional Research)を研究する「大正大学エンロールメント・マネジメント研究所(以下、EM研究所)」を開設した。学生の入学前から卒業後までの一貫した情報を収集・分析・研究を行い、データを活用した大学教育改革の推進、学長と部会長とする教学IR推進部会と連携し、IR組織として活動している。
経営マネジメント本部 法人企画課(IR担当)兼エンロールメント・マネジメント研究所研究員
和田 浩行氏
EM研究所は、学部・研究科・事務局から学生の状態把握や現状改善のヒントなどデータ分析に関する相談を受け、それに対し回答・分析・可視化データを提供する。EMセンター設立前、同様の役割を担っていたのがIR・EMセンターだ。「SAS Institute Inc.(以下、SAS)のBIツール『SAS Visual Analytics』を使って自己点検・評価を行うためにIRに関する『見える化』、『言える化』を実現してきました」と、同大学 経営マネジメント本部 法人企画課(IR担当) 兼エンロールメント・マネジメント研究所研究員 和田浩行氏は話す。同氏は、IR・EMセンターで8年間にわたりSAS Visual Analyticsを使いこなし、豊富な知見とノウハウを有する。
これまでの機能を踏襲しながら、さらに幅広く様々なデータの可視化や分析を行えることを期待し、2018年にSAS Visual AnalyticsからSAS Viya(サスバイヤ)へのアップデートの検討を開始したと和田氏は振り返る。
採用のポイント
BIツールやデータ活用で豊富な実績を持つジールの技術力を評価
最終的には、同大学において様々なシステム更新が重なったことから、SAS Viyaへのアップデートが決まったのは2023年4月だった。SAS Viyaの構築は、既存のSAS Visual Analyticsを構築したベンダーから、BIツールやデータ活用で豊富な実績を持つジールに変更された。SAS Visual Analyticsのライセンス更新作業でジールの実力を評価し、「安心感が違っていました」と和田氏は話す。
当初は、既存のSAS Visual Analyticsと同様に、SAS Viyaもオンプレミスでの導入を計画していた。しかし、同大学は、DXに伴いクラウド化を進めていたことから、パブリッククラウドサービスMicrosoft Azure環境上で構築することになった。
導入のプロセス
SAS Viyaの豊富な導入実績とノウハウのもとスムーズな移行を実現
2023年8月に他社ベンダーがAzure環境の構築を開始し、同年9月からジールがSAS Viyaの導入作業を行い、同年10月に、スケジュール通りわずか1カ月で作業を完了した。
プロジェクト推進・技術支援のポイント①
SAS Viyaの豊富な導入実績をベースに、利便性とコスト最適化の両方を実現
大正大学 図書館情報メディア部 図書館情報メディア課 係長
畑中 優昌氏
限られた予算の中で、データ活用の多様なニーズに応える仕組みをいかに構築するか。ポイントはクラウドにかかる経費の圧縮だ。「ジールに、SAS Viyaの構成をフルではなく、ミニマムにしてほしいと要望しました。それによりコストを圧縮できます。また、オーバースペックにならないように、スモールスタートで始めたいと要望しました。負荷が高くなった時に、クラウドサービスのメリットを生かし、メモリなど拡張することで、初期投資を抑制できます」と、同大学 図書館情報メディア部 図書館情報メディア課係長(導入時は施設課所属) 畑中優昌氏は話す。
SAS Viyaの豊富な導入実績を持つジールの井手上 亮は、構成のミニマム化の要件に次のような対応をしたと説明する。「SAS Viyaの構成は、インスタンスを5つ立てるというのが通常です。コストを抑えるために、同大学のデータ分析の活用の仕方などをお聞きし、3つのインスタンスにまとめる提案を行いました。ポイントは、不自由が生じることなく、快適にデータ分析が行えるように、コストと利便性のバランスをとることでした」
株式会社ジール マルチクラウドデータプラットフォーム ユニット 第二部 マネージャー
井手上 亮
プロジェクト推進・技術支援のポイント②
経験豊富なジール担当者が基盤構築ベンダーと調整しスケジュール通りに完了
大正大学 経営マネジメント本部 施設課
高橋 寛行氏
クラウド環境にシステムを構築する場合、スケジュールの観点ではシステム導入側とクラウド側とのやりとりがポイントとなる。「ジールがAzure環境を構築した他社ベンダーと密に連携してくれたことで、問題が起きることなくスムーズにプロジェクトが進みました」と、同大学 経営マネジメント本部 施設課 高橋寛行氏は話す。
プロジェクトがスケジュール通りに進んだポイントについて、ジールの井手上 亮はこう話す。「構築完了日が決まっていたため、どちらかが遅れるとスケジュールを守れないリスクが生じます。インスタンス構成からリソースの設定値を出し、これに合わせて仮想マシンを立ててほしいとオーダーを出しました。そのオーダー通りに環境を構築してもらった上で、一気にインストール作業を始め、ユーザー登録しクローズする。今回は、互いに勘所のわかる担当者同士だったので、コミュニケーションも円滑にとれました」
プロジェクト推進・技術支援のポイント③
大正大学の視点に立って新規登録などの要望に迅速に対応
SAS Viyaへアップデート後も、既存ユーザーは変わりなくアクセスし利用できる。しかし、新規ユーザーに対しては登録が必要となる。「SAS Viyaで新規ユーザーを追加する時に、クラウド環境のサーバーに接続し作業を行うのですが、今は本学からサーバーにアクセスできない環境となっています。基盤を担当したベンダーにオーダーをしているのですが、まだ開通できていない状況です。そこで、ジールに新規ユーザー登録をお願いしています」と高橋氏は話す。
「新規登録するユーザーの名簿をいただければ、すぐに対応できます」と井手上は即答する。
ジールについて和田氏は「トラブルもなくスケジュール通りに進んだこと、打ち合わせにおけるジールの技術者が専門的かつ明瞭な対応であったことなど、スキルの高い会社だと感じました」と評価する。
導入効果と今後の展望
「こういうデータがほしい」という各部署からの要望に迅速に対応
大正大学 経営マネジメント本部 法人企画課 課長
福中 裕之氏
2023年10月、オンプレミスのSAS Visual AnalyticsからクラウドのSAS Viyaへのデータ移行が行われた。8年間にわたりデータが蓄積されていたため、作業には多くの時間がかかったと和田氏は説明する。「SASの移行支援ツールSAS Environment Managerを使うことで、SAS Visual AnalyticsからSAS Viyaへのデータ移行はほぼ自動的に行えます。今回、データ圧縮を目的にレポートを整理しながら移行したため、完了したのは2024年2月でした」
SAS Viyaで作成したレポートの集大成がTSRマネジメントシートだ。大正大学 経営マネジメント本部 法人企画課 課長 福中裕之氏はその内容を説明する。「このシートに、本学のIRに関するすべてのデータが入っています。例えば、各学科における2023年度の活動、PROG(リテラシー、コンピテンシー検査)、GPA(成績評価)、学科独自のアンケート、入試レポート、授業評価アンケート、学生の満足度調査、学生の成長実感、休退学の数値などです。教育改革への活用はもとより、ディプロマ・ポリシー(卒業認定・学位授与方針)の指標に基づく学生の達成度の把握など社会的に説明が求められるデータとして活用することができます。そして、自己点検・評価をする際に、これらのデータを活用して、翌年度の数値目標も策定しています。データに基づいて、各教員が1年間を振り返り教育改善に生かす。これらのことを踏まえて、IRを活用していく文化が醸成される。SAS ViyaによるIRデータ可視化の大きな意義と言えます」
TSRマネジメントシートは、学校教育法に基づく自己点検・評価のためのシートであり、各種のデータを組み合わせたものだ。付属資料としてSAS Viyaを活用した各レポートも提供している。レポートでは、「このデータをグラフ化してほしい」、「経年で見たい」など、教員からの要望にすべて応えているという。Excelを使って経年変化のレポートを作成するのは、多くの工数がかかる。SAS Viyaなら、一度レポートを作成すれば次年度からは新しい年度のデータをクリーニング後に連結するだけで作業が完了する。また、入学年度を基準にした退学率のような集計分析などにおいて、精度の高い分析を簡単にできるのはSAS Viyaの強みだ。
EM研究所には、教職員から「こういうデータがほしい」という依頼や相談多く寄せられる。同大学 アドミッションセンター 阿部岬氏は、IR情報を活用する重要性について話す。「オープンキャンパスは営業活動の一環としての側面もあります。狙い通りにできたのか。コンテンツは効果的だったか。オープンキャンパスで実施したアンケート結果を定量・定性の観点でデータ化し、効果検証を行い、目的を達成できなかったことに対して仮説検証を実施します。そして、次回のオープンキャンパスで改善し、その結果を検証するといったPDCAサイクルをまわすことにIR情報を活用しています」
IR情報はプレゼンテーションの説得力も高めると阿部氏は話す。「他大学とのベンチマーク比較もお願いしました。ネームバリューではなく、本学の強みを把握・可視化し、それらをふまえた冊子を制作し、高校訪問で活用しています。また、オープンキャンパスのアンケート結果データなどをグラフ化し、本学のオープンキャンパス紹介サイトで公開しています。客観的データもあわせて提示することで、高校教員や高校生の関心を高めことができると思います」
大正大学 アドミッションセンター
阿部 岬氏
そのほかにも、同大学において、IR情報の活用ニーズは多岐にわたる。「大学で取得することのできる資格の一つひとつについて、入学者数を分母とした資格取得率の経年状況を知りたいという要望に応えました。SAS Viyaでは入学年度別のみならず、学科別、最終進路別での経年状況を分析し、各種資格がどのような進路に活かされているかを報告しました。また、法人企画課の補助金に関する資料の作成も行っています。さらに、新入生アンケートや就職満足度アンケートなど各部門の独自アンケートの集計・分析・可視化にも対応しました。SAS ViyaのようなBIツールを利用する上での大事なポイントは、紙で印刷もできますが、見たい人が見たい条件を設定して、その場で瞬時に結果を得ることができるという点です」(和田氏)
SAS Viyaは、ユーザー数が増えてもライセンス料が変わらない(※1)。データを活用した教育改善が定着化するほどに、ユーザーが増加しても追加投資が必要ないというメリットは大きい。今後、ユーザー自身でSAS Viyaを活用できるシーンを増やしてきたいと和田氏は話し、こう続ける。
「大学職員は各部局において多くの集計資料を作成しています。例えば、経年変化はもとより定期的報告、集計データの組み合わせなどは、SAS Viyaを使うことで瞬時に対応できます。業務工数や作業時間の短縮効果は計り知れないと思います。さらに、SAS Viyaでは因子分析をベースとした自動分析を始めとして、線形回帰やロジスティック回帰での分析モデルの比較なども行うことができます。統計的な見方を学ぶことで、ユーザーのデータ活用レベルも向上していく。そのような使い方ができるのもSAS Viyaのメリットです」
左上(ロジスティック回帰) 右上(ディシジョンツリー)
左下(相関マトリクス) 右下(地理バブルオブジェクト)
※2
※1 大正大学様のライセンスは教育機関の管理事務限定のライセンスです。ライセンスプランによりユーザー数・費用は異なりますので、詳細はお問い合わせください
※2 画面イメージはサンプルです。