背景と課題
DXの推進に不可欠なデータの高度活用
データ分析の柔軟性とパフォーマンスの確保が課題
大阪市中央区に本社を構えるチュチュアンナは、レッグウエアやインナーウェアの生産・販売を手掛けるSPA(製造小売)企業だ。自社ブランドショップ「チュチュアンナ」を日本と中国で展開、店舗数は450店((2024年7月期))に達するなど、ビジネスを成長させ続けている。また、自社ECサイトの運営に加え、「tutuanna (チュチュアンナ) 公式アプリ」によるeコマースや情報発信にも注力、2024年2月時点で公式アプリは330万ダウンロードを突破しているという。
同社はデジタルトランスフォーメーション(DX)による売上拡大にも積極的に取り組んできた。店舗可視化カメラを導入し、通行量や入店数、購入者を把握することで、販促策の効果測定に繋げているのはその一例だ。
さらなるDX推進に向けて踏み出したのが、データ活用の高度化である。社会情勢や顧客ニーズの変化をいち早くとらえ、タイムリーな経営戦略の策定から適切な店舗運営を行っていくためには、データの活用が不可欠だ。だが、その実現には、多くの壁が立ち塞がっていたという。
1つが、様々なデータを組み合わせた多角的な分析が困難だったことだ。これまで同社では、基幹系システムをはじめ、POS、物流、通販システムから生成されたデータをバッチ処理によって収集しCSVやテキストに変換した後、BIツールを用いて、売上や在庫の定型分析を行っていた。「しかし、既存のBIツールは、導入時の要件で定義された項目でしか分析が行えませんでした。BIツールの導入時から社会環境や業務要件も大きく変化する中、現場からは『店舗可視化カメラのデータを分析に紐づけたい』といった新たな分析ニーズも寄せられていたものの、その対応が困難だったのです」と、店舗営業部 兼 デジタルマーケティング部 ゼネラルマネジャーの北裏 泰士氏は説明する。
株式会社チュチュアンナ 店舗営業部 兼 デジタルマーケティング部 ゼネラルマネジャー
北裏 泰士氏
株式会社チュチュアンナ 情報システム部 マネジャー
石井 久雄氏
情報システム部 マネジャーの石井 久雄氏も、「新たなデータ分析ニーズに対応するには、外部ベンダーにBIツールの改修を依頼せねばならず、そのためコストや改修時間が発生していました。内製化による現場部門からの改修依頼にも対応していましたが、情報システム部門が業務に追われている時には、即座に対応できないことも少なくありませんでした」と振り返る。
データ分析における処理スピードも課題だった。情報システム部の安井 誠豪氏は、「売上データだけでも年間5000万レコードに達し、それを過去3年分保持して分析に利用していました。また、在庫データも各店舗別に30万SKUが管理されているなど、これらの膨大なデータがデータ分析のパフォーマンスに多大な影響を与えていました」と話す。
「事実、毎週月曜日に営業/商品部門、経営層による定例会議が開催されるのですが、会議用資料作成のためにシステムに処理が集中し、1つの結果が表示されるまでクリックしてから15秒、時には2分近くを要することがありました。また、資料作成に必要なデータが分散していたため、集めたデータをさらにExcel VLOOKUPで統合する、という煩雑な作業も大きな負担となっていました」と北裏氏は振り返る。
株式会社チュチュアンナ 情報システム部
安井 誠豪氏
採用のポイント
新データ活用基盤をDr.Sumで構築
実績と親身なサポートを評価し、ジールを構築パートナーに選定
これらの課題を解決するため、チュチュアンナは2023年8月の稼働を目標に立ち上げられた基幹システム刷新プロジェクト「ROCS23」を契機に、データ活用基盤の刷新に踏み出す。掲げられた要件が、①数値やシステムに不慣れな人でもすぐに使える、マーチャンダイジング基盤の実現、②在庫管理の精度向上、③経営視点での予測精度の向上、④店舗・商品の売上分析の精度向上、⑤自動発注の精緻化、だ。これらを大前提として、先述した課題を解決するため、チュチュアンナは複数のソリューションを比較検討する。その結果、最終的に選ばれたのがウイングアーク1st社のデータ活用基盤「Dr.Sum」、データ分析ツールのDr.Sum Datalizer for Excel(以下、「Datalizer」)だった。
Dr.Sumの採用理由について北裏氏は、「多彩なシステムから生成されるデータに対して、集計項目を柔軟に設定、収集し、分析を可能とする『自由分析』と、高速集計・多重処理に特化したデータベースエンジンによる優れた処理能力が決め手となりました」と説明する。また、石井氏も、「情報システム部門内に前職でDr.Sumを利用していた社員がおり、他社ツールと比べてデータ分析の柔軟性とパフォーマンスに優れているというアドバイスをもらえたことも導入を後押ししました」と補足する。
そして、データ分析基盤構築のパートナーとして選ばれたのが、ウイングアーク1st社から紹介されたジールだった。ジールは、長年にわたりDr.Sumをはじめとしたウイングアーク1st製品を用いたシステム構築を手掛けており、積み重ねたノウハウや知見に基づく最適な提案やシステム構築、きめ細かく柔軟な対応を強みとする。事実、プロジェクトを進めていく中で、ジールのきめ細かい対応は大きな安心感をもたらしたという。安井氏は、「Dr.Sumの利用は初めてであり、知識も技術もない状態からのスタートでした。一方、基幹システムの刷新プロジェクトも並走しており、データ活用基盤の構築に注力する十分な余裕はありませんでした。こうした状況に対してジールは、Dr.Sumに関する豊富な知識と実績だけでなく、当社のビジネスに対する理解も深く、私たちが依頼する前に自ら実データを調査して提案を行うなど、積極的にプロジェクトに関与してくれ、これであればプロジェクトを安心して任せられると実感しました」と評価する。
導入のプロセス
顧客と常に認識合わせをしながらプロジェクトを推進
パフォーマンス向上のための基盤設計にも注力
2022年にDr.Sumを使ったデータ分析基盤の構築がスタート。ジールによる手厚い伴走支援によってプロジェクトはスムーズに進み、2023年8月の新基幹系システムの稼働とともに、Dr.Sumを活用したデータ分析基盤の本番運用もスタートした。
プロジェクト推進・技術支援のポイント①
顧客が求める最適なデータ活用基盤の実現に向け、積極的にプロジェクトに関与
株式会社ジール 大阪支社 大阪DXコンサルティング部 コンサルタント
東野 祐樹
今回、技術支援を担当したジールの東野 祐樹は、「Dr.Sumの導入にあたり、データマートのテーブル構造の作成から、データを収集するためのETLとの連携、および、分析のためのデータ加工などを担当しました。そうした中、どのようにしてデータを収集、保持、加工すればベストな構成となるのか、常にチュチュアンナ様と認識を合わせながら、プロジェクトに臨みました。また、外部ベンダーともやり取りして、現状のデータや連携ツールに関する不明点をヒアリングし、チュチュアンナ様が基幹系システムの刷新に専念できるよう努めました」と説明する。
プロジェクト推進・技術支援のポイント②
データ処理の設定に様々な工夫を凝らし、パフォーマンス向上を実現
Dr.Sumによるデータ活用基盤の構築で最も苦労したのが、パフォーマンスの確保だった。「そもそも売上や在庫などのデータ量が膨大であり、パフォーマンスの確保には苦労しました。そこで、チュチュアンナ様の同意のもと、各システムからDr.Sumに収集するデータを優先順位に基づいて調整するなど、工夫を凝らしました。具体的には、即時性が求められないものは処理を後に回したり、データの種別によっては収集後、即、集計処理に回したりするなど、きめ細かい設計を施しました」(東野)
これらのジールの支援について石井氏は、「Dr.Sumを使ったデータ活用基盤の構築にあたり、ジールはパフォーマンス向上から運用開始後のメンテナンス性の確保まで、多岐にわたる対応をしてくれました。また、こちらからの疑問や質問にも常に適切な回答を寄せてくれ、今後、私たちがDr.Sumを活用した内製開発を進めていくにあたっての知識を習得することもできました」と評価する。
導入効果と今後の展望
分析結果の表示が2分から2,3秒にまで短縮
いち早い経営判断の策定に貢献
MotionBoardの導入で店舗運営の高度化にも着手
新データ活用基盤は、チュチュアンナに多くのメリットをもたらしている。1つがスピードの向上だ。北裏氏は「経営会議における判断と質の向上に、スピードの側面から大きく寄与しています。例えば、経営会議でエリア別の商品売上を問われた際、以前ならExcel VLOOKUPを用いて集計し直す必要がありました。Dr.SumとDatalizerに移行後は、ドリルダウンするだけで結果が表示されるようになっています」と語る。
このことはデータ分析の柔軟性向上にも寄与している。「購入者におけるインバウンドの比率など、Excel VLOOKUPを使えば集計できなくはなかったものの、作業にかかる時間と負荷が大きいため着手できなかった分析ニーズが多々ありました。それが、Dr.SumとDatalizerを利用することで、時間も負担もかからず行えるようになっています」と北裏氏は効果を話す。
そして、データ処理におけるパフォーマンスも大幅に向上している。「ボタンをクリックすれば必要な情報のほとんどが1秒以内に、また、2分以上かかっていたデータでも2~3秒で表示されるになりました。商品部は会議資料の作成のために月曜早朝に出勤していたのですが、その作業にかかる時間と負担が削減され、とても喜んでいます」(北裏氏)
一方、情報システム部門の負担も大幅に軽減されているという。安井氏は「現場からのデータ分析に関する問い合わせですが、体感的に6、7割ほど減っています。また、残った問い合わせのうちの8割も『それはDr.SumとDatalizerの機能を使えば対応可能です』と回答するだけで済んでいます」と評価する。
そして、石井氏は、「今後、内製開発を強化していくにあたり、データ活用基盤が整備されたことで、これまでのようなスポットでの依頼に都度対応していた、“その場しのぎの開発”ではなく、先々を見据えた、継続的に利用して効果がもたらせる開発ができるようになったことは大きなメリットです」と強調する。
チュチュアンナが次の展開として進めているのが、ウイングアーク1st社のBIツール「MotionBoard」の店舗導入だ。これにより、店長自らが経営思考を育み、個店に最適化された「店舗運営」の実現を目指していくという。まずは直営店250店舗に導入し、2024年9月からの運用開始を計画している。北裏氏は、「売上の先週比、前年比、アイテム別、客層別といった詳細なデータを店長が参照できるようにしています。これにより、先週講じた施策の効果を測定し、今週の行動指針を考えたり、前年データに基づく予測客層から人員配備計画を立てたりするなど、店舗運営の効率化と売上拡大に繋げられようにしていきます」と説明する。
ジールの伴走支援のもと、データ活用基盤を刷新したチュチュアンナ。最後に北裏氏は、「今後は店舗、EC、アプリにおける顧客のパーソナルデータの連携を進め、店舗運営や商品展開に活用していきたいと考えています。引き続きジールには、その支援を期待しています」と語った。