データ加工やデータ分析へのニーズがトレーニング実施のきっかけに
―― 労働組合がIT関連のセミナーを開催するというのは珍しいと思うのですが、今回Power BIのトレーニングを実施した背景について教えて下さい。
山森氏
当社の労働組合では組合員のスキルアップや組合費の還元という意味合いから、組合員の役に立ちそうなイベントやセミナーを実施しています。
実施後には「次回、どんなテーマで実施してほしいか」というアンケートをとっているのですが、IT系のセミナーの希望が増えてきていました。
具体的にどんなテーマを希望しているのかを個別にヒアリングしたところ、業務でも活用しているデータを対象に、データ加工について学びたいという声がありました。
総合商社である当社には多くのデータが蓄積されています。それをより効果的に活用するためにスキルアップしたいと考える人が多くいました。
IT部門にも相談したところ、IT部門としてもデータの分析力を強化したいと考えており、Excelよりも一歩踏み込んだBIツールの活用を検討していたとのことでした。
IT部門から、Power BIの研修やトレーニングに豊富な実績を持つジールさんも紹介してもらいました。
―― どんなメンバーを対象にトレーニングを実施されたのでしょうか。
山森氏
今回は、対象を絞らずに幅広い層に募集をかけました。さまざまな部署でPower BIが使える人が出てくれば全社で活用されるようになるのではと考えたからです。
オンラインの講義とハンズオンの2部構成に座学と実践でデータ分析の業務への活用を促進
―― どんな内容でセミナーを実施したのでしょうか。
山森氏
全体として「オンライン講義」と「ハンズオンセッション」の2部構成にしました。オンライン講義は定員100名にして幅広い部署から受講者を募り、興味を持った人にハンズオンセッションを受けていただく形です。
セミナーは、通常、終業後に行っています。今回のオンライン講義も1時間で実施し、その1回でPower BIの概要を説明し、その後のハンズオンセッションは、30名を想定して1クールを4回で構成することにしました。2020年の7月から8月にかけて実施したのですが、新型コロナ感染拡大防止のため、すべてリモートでの開催に踏み切りました。
―― セミナーの具体的な内容について教えて下さい。
佐野氏
参加者のITリテラシーもさまざまと伺っていたので、やさしい内容に重点を置き、用語の説明なども多く組み込みました。
オンライン講義については、データ活用全般の解説からPower BIの概要を中心に実施し、その後のハンズオンでは、クエリエディタを使ったデータ抽出・変換や、目的に応じたレポート作成など、データの可視化に向けた実践的な活用をサポートする内容にしています。
データ活用では、ITに詳しくない方でも活用できる仕組みが必要だと考えています。初めてツールを利用する方にも気軽に使えるように、トレーニングではExcelと同様の機能を例に挙げながらお伝えするにしています。
―― 100名から次のステップに進むのを30名に想定したのはなぜでしょうか。
山森氏
これまで座学編と実践編に分けて行ったことがあり、実践編に進む多くの受講者はその半分ほどでした。
ただ、今回はBIツールというやや敷居が高いテーマで、インストールの申請に手間がかかるなどのハードルがありました。ジールさんにも相談した結果、少なめに想定して30名で設定しようということになったのですが、その枠はすぐに埋まりました。
―― 実際に応募してきたのはどのような方だったのでしょうか。
山森氏
狙い通り人事や営業(資源や食料部門)など、さまざまな部門から参加してくれました。
上司からすすめられた人、データ分析を業務に活かしたいと考えた人など、きっかけはさまざまでした。データをより効率的に処理して、業務に活用したいと模索している部署が多いと感じました。
―― プログラムを企画するうえで、どんな点を工夫しましたか。
山森氏
説明や講義のみを行うスタイルですと、一方通行で受けているだけでは身につかないと考えました。
その懸念をジールさんにご相談したところ、ハンズオンの後に毎回質問を受け付けて、次回はそれに回答する形を提案して頂きました。
また、ジールのトレーニングは数日かけて行うものが多いのですが、それを縮小して分割して実施してくれました。
受講者の立場からすると、復習の時間を設けた方が覚えられると考えたのですが、毎回振り返りを行ったことは大きな効果があったと思います。
佐野氏
ハンズオンは、毎回1時間でまとめていくうえで、理解が進みやすいように1回につき1機能に絞るように構成しました。
用語解説を入れながら、できるだけ分かりやすく説明し、全体を通してPower BIをどう使っていくのかが分かるような流れにしました。
また、リモートでのトレーニングですので、なるべくわかりやすい言葉で、ゆっくりとお話することを心がけました。そして質問に回答する際には、事前にPower BIでサンプルを作成してPower BIの挙動を見せるなど、ご理解いただきやすいように工夫をしました。
参考書やインターネットなどの独学とは理解度に格段の差
実践的なトレーニングでレポートの質が向上
―― 実際にセミナーを受講された感想をお聞かせください。
小池氏
IT部門にいるので、Power BIは日常業務で使っていました。ただ、忙しい周囲の先輩に細部にわたって教えてもらうのは少し気が引けますし、独学で勉強するには限界を感じていました。思い通りにPower BIを扱えるようになりたいと、セミナーへの参加を考えていた際に、このセミナーの案内メールが来てすぐに応募しました。
実際にセミナーを受講してみて、参考書やインターネットで勉強するのとは理解度が全く違うと実感しました。仕組みや機能の理解は格段に進み、新しい気付きがたくさんありました。デスクトップに表示されるいろいろなグラフから自分のレポートにあったグラフを探す方法や、視覚的に訴える力を強化するレイアウトの構成方法、フィルターの作成方法など、実践的なテクニックを教わるなど、有意義なものでした。
Power BIのデータ構造を理解して使うようになったことで、レポートの質が上がったと上司からも評価されています。
―― 講義の進め方はどうだったのでしょうか。
小池氏
初めてPower BIを触れる人が多かったはずなので、リモートで実施するのは難しいのではと思っていましたが、ジールさんによって、操作や説明に集中できるように進行が考えられていて、さすがだなと感じました。
また実践に即した質問を講義時間外に回収し、次講義の初めにQ&Aを全体へ共有するという進め方は、前回の復習になりますし、内容的にも理解しやすかったと実感しています。
佐野氏
リモートによるハンズオンでは、エラーが起きてしまった際のフォローが少し大変でした。
複数の講師がチャットで指導するなど、今後進め方を工夫しながら、データ活用への理解度をさらに向上させて、より業務に生かしていけるようにサポートしていきたいと思います。
―― 全社的に効果はあったと思われますか。
小池氏
はい。セミナー後には全社的にPower BIに対しての認知や取り組みが広がったと思います。
実際に自部署で扱っているExcelからデータを取り出してPower BIで実践していることがわかる質問が増えています。
データ加工については、今までIT部門がそれぞれの部署から依頼を受けて、もらったデータを加工して返すケースが多かったのですが、データ活用という面では部署の人たちで完結できるようになることが目標です。
セミナーを通じてそれが実現されつつあると実感しています。
実践的なトレーニングを経てデータ分析・活用の学びが働き方を変える
―― セミナーを企画・運営した立場からジールをどう評価していますか。
山森氏
企画段階からジールさんとオンライン会議ですり合わせしてきたのですが、丁寧に対応してくれて感謝しています。
今回はツールの説明が中心でしたが、今後さらにデータがどういう事例に活用できるのかといったところに重点を置いたもっと実践的なセミナーにできれば、継続的にPower BIを使う人がより増えていくのではないかと考えています。
これまで労働組合としては、1回のテーマで完結するような単発的なセミナーが多かったのですが、最近は実効性の高いプロジェクト型のセミナーへの機運が高まっています。例えば、IT系の資格取得を目指したセミナーを企画して受験料を組合費で負担するというような議論も始まっています。
佐野氏
DXへの取り組みについて足踏みしてしまう企業もあるなか、労働組合様が主催してトレーニングを企画されたことにとても感銘を受けています。
受講された皆様がとても積極的に参加されている姿が印象的です。
Power BIを中心としたトレーニングでお伝えしたことを、業務などでさらなるデータ活用に取り組むうえで、今後もお役に立てればと思います。
―― ITリテラシーが高くなれば働き方も変わります。その意味で労働組合としてIT活用を後押しする意義もありますね。
小池氏
確かにそう思います。どこの部署においても部署内や他部署、他社と会議を行いますが、事前にデータを収集して資料を作成する時間が発生します。Power BIが活用されれば、資料の作成に時間をかけることなく、より付加価値の高い業務に時間を割くことができます。こうした点に受講したトレーニングが活きてくると思います。
山森氏
業務の中で時間を割くべきなのはディスカッションやアイデア出しです。データを加工するのに時間を割くのは生産的ではありません。Power BIの活用が浸透すればこうした課題が解消されるはずです。また、今回のトレーニングのような方法も検討しながら、これからも労働組合としてデータ活用を普及させていく活動に力を入れていきたいと考えています。