背景と課題
シチズンデータサイエンティストの育成と
現業務課題の解決を目指してデータ活用基盤の構築に着手
介護用品レンタル・販売のヘルスケア事業と医療機関やホテルを対象としたリネンサプライ事業を軸にビジネスを展開するヤマシタ。同社は、中期経営計画「長期ビジョン2030」において、従業員の仕事のやりがい(EX)と顧客体験価値(CX)を相互に高め合いながら、2030年までに現在の3倍となる売上高850億円の達成することを目標に掲げている。 そのための重点施策の1つがDXの推進であり、ヤマシタでは、①デジタル化による業務改善によって生産性を向上させ社員がCX向上に使う時間を増やすこと、②デジタル技術を活用した新サービスを開発することで、顧客接点を拡張し、新たな顧客体験価値を創出することの2つに取り組んでいる。その柱となる3つの取り組みが、新たなITサービス創出や社内システム構築の内製化を加速させる「エンジニア組織の拡大」、ローコードツールの活用により、現場の非エンジニア社員が社内業務アプリの開発を行う「市民開発の推進」、そして、データ分析を誰でもできるよう、民主化するための「生成AIの活用」だ。
株式会社ヤマシタ 社長室 DX推進責任者
小川 邦治氏
これらの取り組みの一環として今回実施されたのが、従業員がデータを自由に活用し、自ら業務改善を実現するためのデータ活用基盤の導入・構築である。社長室 DX推進責任者の小川 邦治氏は、「ヤマシタでは、デジタルを駆使した多彩なサービスの提供により、“在宅介護のプラットフォーマー”となることを目指しています。そのために不可欠だったのが、非エンジニア・非データアナリストの従業員であっても自らデータを自由に使って業務を改善できる“シチズンデータサイエンティスト”を増やし、データ活用の民主化を実現していくこと、そして、様々なタッチポイントから創出される顧客に関する情報を正確に捉え、かつ、それらを従業員が自由に組み合わせて分析できるデータ活用基盤の構築でした」と説明する。
一方、データ活用基盤構築の背景には、業務部門で生じていた課題の解決もあった。ホームケア事業本部 営業統括部 営業標準推進課 課長 久保田 豪氏は、「例えば営業部門では、日次、週次、月次の営業レポートを定期的に作成し、全国の営業所や営業チーム、個人担当者別に提供していました。このほかにも、その時々のニーズに応じてスポットによる営業レポート作成依頼にも対応していました。これらのレポート作成に多くの時間と担当者の負荷が発生していたのです」と話す。
株式会社ヤマシタ ホームケア事業本部 営業統括部 営業標準推進課 課長
久保田 豪氏
株式会社ヤマシタ ホームケア事業本部 営業統括部 データアナリティクスチーム リーダー
丸木 菜摘氏
営業統括部 データアナリティクスチーム リーダーの丸木 菜摘氏は、「システム部に依頼して抽出してもらった売上データをデータアナリティクスチームのスタッフがExcelを用いて参照しやすいよう集計、営業レポートとして関係者に配布していました。しかし、レポートの作成に必要なデータ量が非常に多く、日次レポートの作成では担当者が午前中いっぱい作業にかかりきりになっていました。また、月次レポートを作成する月末月初の締め日の週などは、少なくとも1日はレポート作成に時間を充てなければなりませんでした」と振り返る。
「また、Excelファイル自体にも膨大なデータが格納されていたことから、開くのにも一苦労でした。クリックしてから開くまで少なくとも2~3分かかるExcelファイルを複数立ち上げ、同時にマクロ処理を回すこともあり、集計処理が終わるまで30分以上待ち時間が発生することも日常化していました」(丸木)
一方、情報システム側でも多くの負担が発生していた。システム部企画開発課 小松崎 一希氏も「業務部門からデータ提供の依頼があった際には、基幹系システムから都度、CSVで抽出したり、時にはそれを加工したりして提供していました」と話す。
「例えば、日次レポート用のデータの抽出、提供では平日の夜に1時間ほど残業して作業を行っていました。また、月次や週次レポート作成に必要なデータ抽出では、複数のバッチ処理がスケジュールに沿って行われていたため、エラーなどで処理が停止した場合は対応する必要がありました。さらに、スポット依頼のレポートの場合、比較的容易なデータ抽出でも1、2日程度、Excelでは集計が困難と思われるような複雑なデータ処理を要するものは、いったんシステム部内で加工した後に、業務部門に提供していたため、ある程度の期間が必要でした」(小松崎氏)
さらにシステム部内でも基幹系システム上のデータを取り扱える人員が限られていたため、担当者の負荷増をはじめ、業務が多忙な場合、すぐに依頼に対応できなかったことも課題として挙げられていたという。
株式会社ヤマシタ システム部企画開発課
小松崎 一希氏
採用のポイント
国内でも先駆的な「Microsoft Fabric」導入を決定
マイクロソフト製品に関する高度な知見を評価しジールを導入・構築のパートナーに選定
将来的なデータ活用の民主化、そして、業務部門・システム部門の課題を解決するため、ヤマシタはデータウェアハウス(DWH)とBIツールを主軸としたデータ活用基盤の構築を決断。そのプラットフォームとして選択されたのが、データレイクハウス、DWHとBIをはじめとする幅広い分析機能に生成AIが組み込まれたマイクロソフトのクラウド型オールインワンデータ分析ソリューション「Microsoft Fabric」だった。
小川氏は、「将来的なシチズンデータサイエンティストの育成にあたっては、生成AIの活用も不可欠と考えていました。そうした中、生成AIを組み込んだDWHであり、かつ、データの蓄積や変換、分析からアウトプット、アプリケーションへの変換機能に優れていたソリューションが、Microsoft Fabricだったのです」と話す。
そして、導入と構築のパートナーとして選ばれたのが、マイクロソフトから紹介されたジールである。小川氏は、「ジールを選択した理由は、マイクロソフトのソリューションに関する豊富な知識と、数多くの構築経験を評価したことにありました」と語る。事実、ジールは、マイクロソフトが認定するパートナー制度において、「Microsoft Azureを使用した分析」分野のAdvanced Specializationを2021年に国内第一号で取得するなど、データAI/BI分析サービスに関して、極めて高度な能力を有していることが公式に認定されている。
また、小松崎氏も「ジールはリリースされたばかりのMicrosoft Fabricについてもすでに多くの知識を習得しており、ヤマシタの導入にあたって必要な機能要件など、より具体的かつ的確な提案をしてくれたことも採用のポイントとなりました」と話す。
導入のプロセス
マイクロソフトのソリューションに関する高度な知見と導入経験を活かし
Microsoft Fabricを活用したDWHからBI環境の構築までをジールがワンストップでサポート
2022年4月よりヤマシタのMicrosoft Fabric導入プロジェクトがスタート。ジールの伴走支援のもと、2024年7月の本番運用に向けて現在、構築が進められている。
プロジェクト推進・技術支援のポイント①
マイクロソフトからも認定された高度な知識と経験を駆使し、データ活用基盤の設計、構築に注力
株式会社ジール ビジネスアナリティクスプラットフォームユニット 上席チーフスペシャリスト
永田 亮磨
今回のプロジェクトは、Microsoft Fabric導入の国内早期事例の1つとなる。そうしたチャレンジングな取り組みをサポートしたのが、ジールのマイクロソフトのソリューションに関する高度な専門性と卓越した能力だ。ジールはマイクロソフトの認定制度である「Specialization」を「Microsoft Azureを使用した分析」の分野で取得しているほか、本プロジェクトに参画したジールの永田 亮磨は、2021年から3年連続で「Microsoft MVPアワード(Data Platform部門)」を米国マイクロソフトより受賞している。
永田 亮磨は「Microsoft Fabricはリリースされたばかりであるものの、基本的なテクノロジーは既存ソリューションから踏襲されていたため、比較的スムーズにヤマシタ様のデータ活用基盤構築プロジェクトに臨めました。また、一部の機能について既存製品から未実装のものがあったものの、これまで携わってきた数々の案件で培ってきた知見を活かすことで、最終的にはヤマシタ様の求める要件に対応することができました」と語る。
プロジェクト推進・技術支援のポイント②
データ活用基盤の導入に際して、用途に応じた最適なデータモデルを提案・設計
今回、DWHを含むデータ活用基盤はヤマシタでは初の導入となる。そうした中で、将来的なデータ活用の在り方も見据え、ジールは最適なデータ活用基盤の設計に取り組んだ。永田 亮磨は「データ活用基盤導入にあたっては、まずは蓄積されるデータを用途に応じて効率的に使い分けられるように、メダリオンアーキテクチャをベースとした設計から取り組み始めました。具体的には、既存システムのデータモデルを維持した領域と、分析用途に軸足を置いた領域でのデータモデルです。今回のプロジェクトでは、Microsoft Power BIを用いた分析環境の提供に推奨されるデータモデル、および将来的なMicrosoft Copilotの活用も見据えたデータモデルを提案し、構築を進めました」と説明する。
プロジェクト推進・技術支援のポイント③
常に密なコミュニケーションを図り、スムーズなプロジェクトの推進をサポート
高度な技術力の提供だけでなく、プロジェクト自体が円滑に進行できるよう、ジールはサポート面でも尽力した。ジールの永田 雄士は、「ヤマシタ様の要望するスケジュールと、本番運用に向けた実データを用いたテストの規模感などを鑑み、ヤマシタ様、ジール側の人的リソースの調整も図りながら、スムーズにプロジェクトが進められるよう舵取りに努めました」と話す。また、コミュニケーションを密にとり、要件に齟齬が発生しないよう、週2回の定例ミーティングも定期的に開催、現場業務部門の担当者も交えながらプロジェクトを進めていった。
このほかにも永田 雄士は、「今回のデータ活用基盤導入プロジェクトでは、ウォーターフォール型の開発をベースにしつつも、ヤマシタ様からの要望に応じて都度、設計・修正を繰り返すアジャイル開発の要素も取り入れ、いち早くヤマシタ様が求める機能を実装できるように取り組みました」と語る。
株式会社ジール ビジネスアナリティクスプラットフォームユニット コンサルタント
永田 雄士
導入効果と今後の展望
煩雑なExcelの集計・加工から解放され、
データ活用の民主化に向けて大きな一歩を踏み出す
先述の通りMicrosoft Fabricを主軸としたデータ活用基盤の本番運用は2024年7月を予定しているが、既にそのメリットは十分に発揮されているようだ。丸木氏は、「これまでのようにExcelによる煩雑な集計処理を行わずとも営業レポートがMicrosoft Power BIのダッシュボード上に即座に表示されるようになり、週次データも毎日参照できるようになっています。我々の業務もこれまでの営業レポートの作成から解放され、今後はデータ活用を社内で訴求する役割に変わっていきます」と語る。久保田氏も「この仕組みを活用することで、今後は各営業所や担当者自らがMicrosoft Power BIを活用し、それぞれが必要なデータを参照、分析できるようになると期待しています」と話す。
一方、システム部側にも大きなメリットがもたらされている。小松崎氏は、「データがDWH上に一元的に保管、管理されており、かつ、業務部門のユーザー自身が抽出可能となったため、今後、データ提供に関する作業が不要になると期待しています。また、これまでは業務担当者が、出自が不明なデータを用いて分析を行っていたケースも散見されていましたが、DWH上に正しいデータが一元的に保管、管理されるようになったため、より正確なデータ分析が可能になっています」と評価する。
最後に小川氏は、次のように、今後の展望とジールに対する要望を語った。「シチズンデータサイエンティストの育成に向けて、まずは Microsoft Power BIを利用できる従業員を増やしていきたいと考えています。また、Microsoft Copilotの活用はこれからですが、近い将来、自然言語で指示を出せばAI側でデータ分析してくれる世界が必ず到来すると予測しており、シチズンデータサイエンティストの育成はそのための基盤づくりでもあります。そして引き続きジールには、当社のさらなるデータ活用の高度化、そしてシチズンデータサイエンティストの育成を支援してくれるような様々なサポートを期待しています」(小川氏)